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定年退職時の同時受給が招いた、2,060万円の控除枠超過
都内大手メーカーを定年退職した山下徹さん(60歳・仮名)は、退職金の受取手続きを完了しました。山下さんの現役時代の最終年収は1,200万円です。30歳から60歳までの30年間、iDeCo(個人型確定拠出年金)への拠出を月額2.3万円(年額27.6万円)継続してきました。
「30代の頃、職場の福利厚生の説明会で『iDeCoは全額所得控除になるため、節税効果が高い』と説明を受けました。それ以来、上限額まで拠出を続けてきました。運用成績は良好で、元本合計828万円に対し、受取時の評価額は約1,500万円に達していました」
山下さんは、自身の拠出履歴が記載された通知書を確認しながら事実を述べました。定年退職にあたり、山下さんは会社から一括で支払われる退職金2,000万円を受領しました。同時に、iDeCoの資産1,500万円についても、一時金(一括)での受取を選択しました。合計3,500万円の資金を同一年に受け取る形となります。 しかし、受取方法を確認する中で、山下さんは税金の計算方法について想定していなかった点に気づきました。
「私の勤続年数は38年で、退職所得控除額は2,060万円になります。ただし、退職所得は同一年に複数ある場合、合算して計算される仕組みです。会社の退職金とiDeCoの一時金を同じ年に受け取ると、控除枠を合計額で使うことになります」
所得税法では、同一年に複数の退職所得がある場合、それらを合算したうえで退職所得控除を適用し、残額の2分の1が課税対象となります。山下さんの場合、退職金2,000万円とiDeCo1,500万円の合計は3,500万円です。ここから退職所得控除2,060万円を差し引いた1,440万円の半額である720万円が、課税退職所得として算出されます。
「私は当初、iDeCoは退職金とは別に控除が使えるものだと思っていました。しかし同じ年に受け取ると合算されるため、結果としてiDeCoの一時金の多くが課税計算に含まれる形になりました」
もっとも、退職所得は分離課税であるため、給与所得などとは合算されません。そのため税率は通常の給与所得よりも低くなる場合もありますが、それでも住民税を含めると数百万円単位の税負担が生じる可能性があります。山下さんは振り返ります。
「積立時の節税メリットはよく説明されましたが、退職金と受取年が重なる場合の税務上の扱いについては、当時は詳しく理解していませんでした」
現在の制度では、会社の退職金とiDeCoの一時金の受取時期を一定期間ずらすことで、退職所得控除の適用関係が変わる場合があります。
「もし制度をよく理解していれば、iDeCoを年金形式で受け取る、あるいは受取時期を調整するなど、別の選択肢も検討できたかもしれません」