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「老老相続」の現実と、資産を使い切ることの経済的合理性
坂口さんのような「全額使い切り」という選択の背景には、現代日本における資産承継のミスマッチがあります。
金融庁の調査(「市場ワーキング・グループ報告書」等)によれば、日本の個人金融資産における60歳以上の保有割合は上昇を続けており、2035年には全体の約7割に達すると予測されています。
しかし、実際に相続が発生する際、受け取る側の子どももすでに50代後半から60代に達している「老老相続」が一般的になっています。
教育費や住宅ローンで最も資金を必要とする現役時代には資産が動かず、自身もリタイアを控えた時期に大金が転がり込むという、資金需要と供給の時期的なズレが起きているのです。
金融経済教育推進機構『家計の金融行動に関する世論調査』によると、2人以上世帯では44.3%が「老後の世話をしてくれるならば、こどもに財産を残してやりたい」「家業を継いでくれるならば、こどもに財産を残してやりたい」など、理由はどうであれ「こどもに財産を残してやりたい」という意向を示しています。
一方で「子どもはいるが、自分の人生を楽しみたいので使い切りたい」は17.5%と、2割弱は「残さない」を前提に考えています。
坂口さんのように、高額なサービスへ支出を重ねて残高を減らす行為は、周囲には目的のない浪費と映るかもしれません。しかし死後に予期せぬ摩擦を生むリスクを考慮した判断であれば、共感できるのではないでしょうか。
親が資産を使い切る方針を明確にすることは、子世代が早期に自らの資金計画を立てる契機となり、結果として相続を巡る親族間の対立を未然に防ぐ、有効な選択肢といえそうです。