(※写真はイメージです/PIXTA)
年金生活スタートも、1枚のハガキで発覚した「想定外の手取り額」
Aさん(65歳)は、地元の印刷会社を定年退職し、おひとり様での年金生活をスタートさせました。
現役時代に届いていた「ねんきん定期便」によれば、もらえる年金は月に約16万円。退職金を含めた貯金は1,500万円ほどあり、決して安泰とはいえませんが、家賃6万円の賃貸アパートで一人暮らしをする分には何とか暮らしていけると考えていました。
「現役時代は毎月の給料から、高い健康保険料やら厚生年金やらをごっそり引かれて、大きな負担を感じていました。でも、これからは引かれるものもなく、国から年金が丸々もらえるんだから、気分的には少し楽になりますよ」
長年独身で身軽なAさんは、年金受給開始を機に「手取りが減るストレス」から解放されると信じて疑いませんでした。
しかし、日本年金機構から届いた「年金振込通知書」のハガキを開いた瞬間、Aさんの表情は曇りました。
年金生活でも続く「天引き」の重み
ハガキに印字されていた「振込額(手取り)」は、想定していた16万円よりも少なく、月に換算すると約14万円でした。振込明細をよく確認すると、そこには「介護保険料」や「国民健康保険料」、さらには「所得税・住民税」といった名目で、合計2万円ほどが差し引かれていました。
「は? なんでこんな少ないんだ? ねんきん定期便に書いてある金額と違うぞ」
Aさんはすぐに役所へ電話をかけました。すると、年金が年額18万円以上の場合は、介護保険料や国民健康保険料といった社会保険料に加えて、所得税や住民税も年金から自動的に天引き(特別徴収)される仕組みになっていると説明されました。
「給料から色々と引かれるのは現役時代だけだと思っていました。まさか年金生活になっても天引きが続くなんて……。ハガキの16万円がそのまま振り込まれると信じ切っていました」
手取りの14万円から家賃6万円と光熱費などを引くと、手元に残るのは数万円。赤字にこそなりませんが、食費を切り詰めるギリギリの生活で、想定していた老後の趣味や旅行なんてする余裕はありません。
老後は税金や保険料から解放されるというAさんの甘い期待は打ち砕かれました。日々のやり繰りは年金内に収めているものの、家電の故障や病気といった突発的な出費があれば、1,500万円の貯金を取り崩すしかありません。
「もっと早くから手取り額で計算しておけば……。自分の知識不足が本当に悔やまれます」
おひとり様の家計を圧迫する「非消費支出」と額面のギャップ
Aさんのように、年金生活に入れば社会保険料の支払いから解放されると誤解している人は多くいます。しかし、現実はまったく異なります。
年金の受給額が年額18万円以上の人は、原則として年金から介護保険料、国民健康保険料(または後期高齢者医療保険料)、さらには所得税や住民税などの各種税金が天引きされる仕組みになっています。つまり、ほとんどの年金受給者が対象となるのです。
総務省が発表した「家計調査報告(2025年平均)」を読み解いても、単身の高齢者世帯において、税金や社会保険料といった「非消費支出」の負担が家計を強く圧迫している現状がうかがえます。とくに頼れる家族がいないおひとり様にとって、手取りの減少は生活の質の低下や、老後破綻のリスクに直結します。
現役時代に届く「ねんきん定期便」には、こうした保険料などが天引きされる前の額面が記載されています。年金生活に入っても負担が一生涯続くことを前提に、「手取りは額面の85〜90%程度になる」と保守的に見積もって老後の生活設計を立てることが不可欠です。
[参考資料]
日本年金機構「年金Q&A(年金からの介護保険料などの徴収)」
総務省「家計調査報告-2025年(令和7年)12月分及び2025年平均」