暮らしは便利になる一方で、社会の仕組みは驚くべき速さで形を変えています。 かつて当たり前だった「紙」や「対面」による手続きは、今や「オンライン」へと集約され、効率化の波は止まることを知りません。しかし、この進化の影で、途方に暮れる人々も存在します。 ある女性の告白から、現代社会が抱えるデジタル格差の深層を紐解いていきます。
悔やんでます…「年金月18万円」「老後資金3,000万円」65歳男性、思わず青ざめた「預金残高」の衝撃 (※写真はイメージです/PIXTA)

「先送り」が生まれる理由と統計的背景

佐藤さんが抱いた「自分は大丈夫だ」という確信と、現実に起きた残高のズレ。このギャップは、今のシニア世代が共通して抱える「見えないリスク」を象徴しています。

 

1.資産全体を正確に把握していない現状

金融広報中央委員会の『家計の金融行動に関する世論調査』によると、60代で資産全体を「正確に把握している」と答える人は少数です。「だいたい把握している」という層が一定割合を占めますが、佐藤さんの事例が示す通り、この「だいたい」が有事(介護や入院)の際には通用しません。

 

2.「きっかけ」がないと動けない現実

内閣府『生活設計と年金に関する世論調査』等では、家計の見直しや将来設計を具体的に行うのは、自分や家族の病気・介護などの「出来事が起きた後」であるケースが多いと示されています。し裏を返せば、「今困っていないこと」に対して、わざわざ手間をかけて整理しようとする人は少ないという実態があります。

 

3.「緊急性」と「重要性」のズレ

今の生活が問題なく送れていると、銀行口座を一つにまとめたり、不要な契約を解除したりする作業は「面倒なだけで、今すぐやらなくても困らないこと」に分類されてしまいます。その結果、退職や介護といった生活の大きな変化が訪れるまで、何年も放置されてしまうのです。

 

結局のところ、佐藤さんが最も後悔しているのは、お金そのものではなく「無駄にしてしまった時間」だといいます。

 

「一気にすべてを片付けようとしなくていい。ただ、せめて銀行の通帳をひとつにまとめるだけでも、元気なうちにやっておくべきでした」

 

誰にとっても、介護や病気は突然やってきます。そのときに、事務作業や家計の混乱に時間を奪われないために――まずは「次の休みに使っていない口座を解約する」といった、小さな一歩から始めることが、自分と家族の穏やかな時間を守ることにつながります。