「介護保険制度」ができたのは、2000年のこと。急速な高齢化と女性の社会進出などを背景に創設された同制度は、それから約30年、在宅サービスの充実をはじめ一定の成果をあげてきました。その一方で、3年ごとの制度改正を経てもなお、近年はその“疲れ”が顕在化しつつあるようです――。高島亜沙美氏著、西智弘氏監修の書籍『人生の終わり方を考えよう 現役看護師が伝える老いと死のプロセス』(KADOKAWA)より、介護保険制度の成り立ちと現状について、本記事でくわしくみていきましょう。
〈嫁〉には頼れないから…病気が治っても高齢親を病院に預けておく「社会的入院」が深刻化したワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

30年前に介護保険制度ができたワケ

老いが健康と生活に影響を及ぼしてくると、家での生活そのものがままならなくなってきます。そこで導入されたのが介護保険制度です。迫り来る高齢社会への備えという側面もあったでしょう。今では当たり前となったこの制度も、実は30年前には存在しなかった制度。ここで、介護保険制度の成り立ちと歴史について少し触れていきます。

 

女性の社会進出も影響し、「家族介護」が限界に

介護保険制度導入の背景には、高齢化の進展と社会構造の変化、この2点が挙げられます。1970年代以降、日本は急速な高齢化を迎えることになりました。1977年には、病院での死亡者が在宅での死亡者を超えます。家で死ぬことよりも、病院で死ぬことが当たり前の時代になったのです

 

1985年には、男女雇用機会均等法が成立し、翌年には施行されます。これまで介護の重要なリソースとなっていた「嫁」も外で仕事をするようになり、家族の中だけで介護を成立させることが困難になっていきました。この頃から「社会的入院」という問題も深刻化してきます。これは医療を受ける必要性が低いにもかかわらず、介護サービスの不足により高齢者が長期間入院せざるを得ない状況を指します。病気は治ったけど家で介護してくれる人がいない。ならば、ひとまず病院に預けておこう、という考えですね。

 

これにより医療費の増大と病床の非効率な利用が問題視されるようになりました。退院する人がいなければ、新たに入院患者さんを受け入れることはできません。入院の必要がないのに入院している患者さんによって、ベッドが埋まってしまう状況が続いたのです。

 

制度化を後押しした「21世紀福祉ビジョン」

このような背景から、1994年に高齢社会福祉ビジョン懇談会が「21世紀福祉ビジョン」を提言し、新たな介護システムの構築を提案しました。家で介護を受けることが、はじめて制度化されたんです

 

これを受けて、1996年に与党による介護保険制度の創設に関する合意が成立し、1997年12月に介護保険法が成立します。介護保険制度の基本理念として、下記の点が重視されました。

 

1.自立支援:高齢者の自立した生活を支援する

2.利用者本位:利用者が自らサービスを選択できる制度

3.社会保険方式:給付と負担の関係が明確な社会保険方式を採用

4.予防重視:要介護状態の予防や軽減、悪化防止を重視

 

制度設計においては、ドイツの介護保険制度を参考にしながらも、日本の実情に合わせた独自の仕組みが構築されました。たとえば、現金給付を原則としないことや、40歳以上の国民を被保険者とすることなどが特徴的です。