贅沢をしなければ年金だけで生活できる高齢者世帯は恵まれているといえますが、そこに、手を離れたと思っていた子どもが帰ってきたら……やむを得ない事情があったとしても、老後生活は一気に深刻なものになる可能性があります。今回はうつ病の息子に悩む老夫婦の事例から、受けられる公的支援の具体例などについてCFPの松田聡子氏が解説します。
60代でまた“子育て”するなんて…年金月20万円・資産3,000万円「すべて順調、計画通り」の老後が暗転。発端は40歳息子の「静かな告白」【CFPが解説】
FPが助言する「親子共倒れ」を防ぐ対策
では、川村家のような状況に直面したとき、親はどう対応すればいいのでしょうか。ファイナンシャルプランナーとして、現実的な対策を提案します。
大切なのは、「子どもの面倒は親が見るべき」という考え方から一歩踏み出すことです。もちろん、親として子どもを助けたいという気持ちは当然です。しかし、親自身が経済的に破綻してしまえば、最悪の場合、「親子共倒れ」となりかねません。
まずは公的な支援を受ける可能性を探りましょう。うつ病などの精神疾患で、日常生活や労働に著しい制限がある場合、障害年金を受給できる可能性があります。障害年金には「障害基礎年金」と「障害厚生年金」があり、受給できる金額は等級や加入していた年金制度によって異なります。
2025年度の金額で見ると、障害基礎年金2級の場合、年額約83.2万円(1956年4月2日以後生まれの場合)が支給されます。豊さんのように会社員として厚生年金に加入していた場合は、基礎年金に加えて障害厚生年金として報酬比例部分(2級の場合)が上乗せされる仕組みです。
障害年金の受給要件は、初診日に年金に加入していること、一定の保険料納付要件を満たすこと、障害認定日に一定の障害状態にあることです。精神疾患の場合、日常生活にどの程度支障が出ているか、就労がどの程度困難かを主治医に正確に伝え、診断書に反映してもらうことが重要です。
障害年金の申請は専門知識が必要なため、社会保険労務士などの専門家に相談することをおすすめします。障害年金による月7万円から10万円程度の収入があれば、持ち家があって住居費がかからない場合、賢治さん夫婦に経済的な負担がかかることは避けられるでしょう。賢治さん夫婦が亡くなった後も、豊さんが引き続き実家に住み続けることができれば、最低限の生活は維持できると考えられます。
計画通りの人生が変わってることは、誰にでもある
自立が難しい場合の選択肢として、精神障害者向けのグループホーム(共同生活援助施設)や、地域の障害福祉サービスの活用が挙げられます。精神保健福祉士などの支援専門職と連携することで、適切な支援を受けながら地域で暮らし続けることも可能でしょう。
何より大切なのは、自分たちだけで抱え込まないことです。今すぐ相談できる窓口として、市区町村の保健所・保健センター、都道府県の精神保健福祉センターなどがあります。これらの窓口では、精神疾患を抱える本人や家族の相談に応じており、障害年金の申請支援、福祉サービスの紹介、就労支援など、具体的なアドバイスを受けることができます。
精神疾患は長期化することも多く、家族にとっては忍耐が求められます。しかし、親がすべてを抱え込む必要はありません。公的支援制度や専門家を積極的に頼ることが、本人にとっても家族にとっても最善の道です。
そして、親自身が健康で経済的に安定していることこそが、子どもにとって最大の支援となります。川村家のように、計画通りの人生が突然変わってしまうことは誰にでも起こりえます。だからこそ、早めの相談、早めの対策が大切なのです。
松田聡子
CFP®