(※写真はイメージです/PIXTA)
お金を使うことを後押しした息子の一言
転機は、久しぶりに帰省した息子の一言でした。二人の質素すぎる暮らしぶりを見た息子は、呆れながらもこう言ったのです。
「父さん、母さん。俺にお金を残そうとしてるなら、いらないよ。俺は自分で稼いでるから。それより、もっと二人のいまに使ってくれよ。俺、二人が楽しそうにしてるほうが嬉しいんだよ」
その言葉に、ハッとさせられました。
「いつかなにかがあったときのためにと、40年間我慢し続けてきたけれど、その『いつか』は、永遠に来ないのかもしれない。いま楽しまなければ、私たちはただお金を持ったまま死ぬだけなんだ」
そこで二人が話し合って決めた、お金の使い道。それは、「家族全員参加の『完全招待旅行』を毎年主催すること」です。
息子夫婦と孫、そして自分たち。総勢6名の旅行費用、交通費から宿泊費、食事代、アクティビティ代まで、すべてサブローさんが「スポンサー」として支払うのです。予算は年間100万円。これまでなら考えられない金額です。
先日、初めての旅行で沖縄に行きました。孫がホテルのプールで大はしゃぎし、息子夫婦が「父さん、ありがとう! こんな贅沢初めてだよ」と満面の笑みを見せる。――その光景を見たとき、サブローさんは初めて「お金を使ってよかった」と心から思えたそうです。
「通帳の数字は減りましたが、代わりに『家族の思い出』という、決して消えない財産が増えました。8,000万円、使い切るつもりで、これからは孫たちの笑顔に換えていきます」
老後資金の使い方を可視化する
サブローさんとトモコさんのように、現役時代に過度な節約を続けてきた人にとって、貯金を取り崩すことは恐怖でしかありません。この恐怖を克服し、老後資金を適切に使うためには、次の4つのポイントを押さえましょう。
1. 「節約」という名の依存症
40年間続けてきた「節約」は、もはや生活習慣であり、一種の依存症に近い状態といえます。「通帳の残高が減る=自分の命が削られる」ような錯覚に陥っているため、理屈ではお金があるとわかっていても、数百円の出費に痛みを感じてしまうのです。この心理ブロックを解除するには、「これ以上使ったら危険」というラインと、「ここまでなら絶対に使っても大丈夫」というラインを、明確な数値として可視化するしかありません。
2. 「手を付けない金額」を先に決める
まずやるべきは、「最期まで手を付けないお金」を決めることです。一般的に、老人ホームの入居一時金や介護費用、葬儀代などを考慮し、1人あたり500万円〜1,000万円程度を確保しておけば安心といわれています。今回の夫婦の場合、かなり保守的に見積もって「2人で3,000万円」を死守するライン(防衛資金)と設定します。
総資産: 8,000万円
手を付けない金額: 3,000万円
使ってもよい金額: 5,000万円
このようにわけることで、「全財産が減っていく」という感覚から、「自由資金という枠の中で予算を消化する」という感覚に切り替えることができます。
3. 「何歳までにいくら使うか」をシミュレーション
次に、この「自由資金5,000万円」を、体が動く元気なうちにどう配分するかを計算します。現在65歳のご夫婦が、健康で旅行や趣味を十分に楽しめる「健康寿命」を80歳までと仮定します(期間は15年間)。
つまり、年金19万円の生活費とは別に、年間333万円を使い切っても、80歳時点で資産はまだ3,000万円残っている計算になります。
4. 「使わないリスク」を直視する
多くの高齢者世帯が、長生きリスクばかりを懸念しますが、資産8,000万円の夫婦にとってのより大きなリスクは「お金を持ったまま、使う体力と気力を失うこと」です。
漠然とした不安を抱えたまま節約を続けるのではなく、一度自身の資産寿命をシミュレーションしてみることをお勧めします。「使ってもなくならない」という事実を数字で確認することこそが、長年の呪縛から解き放たれる唯一の方法です。