かつての「標準的な老後」のイメージは、止まらない物価高と実質的な年金額の目減りによって崩壊。最新の統計データを紐解くと、わずか1年の間に不足額の試算が数百万円単位で膨れ上がっているという驚くべき事実が浮き彫りになりました。 切実な状況に直面するある夫婦のケースをみていきます。
「長生きが怖い」貯金3,000万円・年金月28万円でも揺らぐ70代夫婦の老後…最新統計が示す「中間層」の現実 (※写真はイメージです/PIXTA)

「まさか、こんなに減るとは」…現役時代の蓄えを切り崩す、70代夫婦の静かな困窮

都内の郊外にある閑静な住宅街。築35年の戸建てに住む佐藤健一さん(74歳・仮名)と妻の和子さん(71歳・仮名)。 自身のことを「中流のなかの中流」と称する佐藤さん夫婦。健一さんは60歳定年まで中堅企業で働き、老後は退職金と預貯金、そして年金があれば安泰だと考えていたそうです。

 

「老後のためにと退職金と合わせて3,000万円ほど貯めました。年金も妻と合わせて月28万円、手取りで25万円ほどあります。当時はこれで十分だと思っていました」と健一さんは振り返ります。

 

しかし、ここ数年の急激な物価高が、その計算を徐々に崩しつつあります。 以前は夫婦で月20万円もあれば不自由なく暮らせていましたが、現在は食費や光熱費、固定資産税などの維持費を含めると、毎月の支出は25万円を優に超えてしまうといいます。

 

「スーパーに行くと、数年前なら100円台で買えたものが200円、300円になっている。一つひとつは小さな差ですが、月単位、年単位でみると大きな差ですよね。年金は多少増えていますが、それでは賄いきれないですよ、最近の物価高は……」

 

生活のベースとなる年金についても、当時の思惑とは異なると語ります。

 

「今の年金制度になったのは、私が40代手前のことだったと思います。まだ老後のことなんて遠い未来の話だと思っていたし、そのころの日本は上り調子だったから、老後の心配なんてする人はあまりいなかった。真面目に働いていれば、年金がちゃんともらえて、暮らしていけると思っていたんです」

 

70代も中盤に差し掛かってきた健一さん。最近は医療費の負担も増えてきました。 それに伴い、以前ほどレジャーに対する欲が減ってきたため、支出増そのものには強い悲観はないといいますが、一方で妻の和子さんは不安を隠せません。

 

「平均的なことを考えると、あと20年弱は老後が続く。それまでこの値上げが続くと思うと、不安で仕方がないです。それ相応の準備をしてきたつもりでしたが、甘かったでしょうか。長生きが怖い世の中になるなんて、思ってもいませんでした」