老後の住まい選びにおいて、多額の入居一時金を支払って「終の棲家」を確保する。たとえば、手厚い介護が保証される「介護付有料老人ホーム」への入居は、ひとつのゴールといえます。しかし、近年の物価高騰や慢性的な人手不足は、こうした施設運営のあり方を大きく変貌させています。ある男性2人のケースをみていきます。
「こんなはずじゃなかった…」入居一時金4,000万円で高級老人ホーム入居した友人の後悔。「一生賃貸」を選んだ78歳男性との残酷な明暗 (※写真はイメージです/PIXTA)

「入居一時金」の償却と、サ高住の料金形態

一般に、介護付有料老人ホームのなかには、入居時に数千万円規模の「入居一時金」を設定している施設もあります。この一時金は、終身利用を前提とした契約設計のもとで支払われるケースが多く、契約には「償却期間(おおむね5年~10年程度)」が定められているのが一般的です。

 

償却期間中は段階的に返還金が減少し、期間を経過したあとに退去する場合には、返還金が大幅に少なくなる、あるいは契約内容によっては発生しないこともあります。そのため、運営方針の変更やサービス内容の変化が生じた際でも、経済的負担を考えると住み替えのハードルが高くなる可能性があります。

 

一方で、松本さんが利用している「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)」は、原則として賃貸借契約に基づく住宅であり、高額な入居一時金を必要としない形態が中心です。

 

■経営リスクの分散

近年、老人福祉関連事業において倒産件数が増加傾向にあることが各種調査で示されています。高額な一時金を一括で支払うことは、特定の事業者に資産を預ける構造でもあります。賃貸形式であれば、仮に運営環境に変化が生じた場合でも、比較的柔軟に住み替えを検討できる余地があります。

 

■身体状況に応じた段階的な選択

サ高住は外部の訪問介護などと組み合わせて利用する仕組みであり、近年は特定施設入居者生活介護の指定を受け、看取りまで対応する事例もみられます。ただし、対応範囲は施設ごとに異なるため、契約内容の確認は不可欠です。将来の介護ニーズをあらかじめ固定するのではなく、心身の変化に応じて住まいを見直すという考え方も、一つの合理的な選択肢といえるでしょう。

 

■資産の流動性という選択肢

高齢期においては、「居住の安定」と同時に「資産の流動性」も重要な要素になります。高額な一時金として資金を固定するのではなく、手元で管理・運用を続けることで、医療や介護の状況変化、新たな住まいの選択肢が生まれた際にも対応しやすくなります。

 

もちろん、どの住まい方が最適かは個々の資産状況や健康状態、価値観によって異なります。ただ、住まいを「一度きりの決断」と捉えるのではなく、環境や自身の状態に応じて見直し続けるという視点は、これからの時代において重要性を増していく可能性があります。