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忙しさは増すが、手応えはない
首都圏で製造業を営むO氏(50代)は、近年の経営環境についてこう語る。
「売上は大きく落ちていません。しかし、原材料費や人件費の上昇で利益は圧迫されています。採用も難しく、営業、現場管理、面接、資金繰りまで、結局すべて自分がやらないと回らない。以前より忙しいのに、経営が前に進んでいる感じがしないのです」
この感覚はO氏だけでなく、多くの中小企業経営者に共通している。
中小企業の約6割が正社員不足を実感
日本政策金融公庫の「中小企業の雇用・賃金に関する調査」によると、正社員が不足していると感じている中小企業は58.8%にのぼる。
不足感の理由としては、
・経験・スキルのある人材が採用できない
・給与や待遇条件で大手企業に競り負ける
・若手社員の定着率が低い
といった構造的問題が背景にある。
人手不足倒産は年間300件規模の勢い
東京商工リサーチによれば、人手不足を一因とする倒産は2025年には約397件と過去最多となった。
業種別ではサービス業、建設業、運輸業など、労働集約型の業界で倒産が目立つ。背景には求人難・人件費高騰・従業員退職といった複数要因が重なり、経営者の判断力も現場逼迫によって制約される構造が浮き彫りになっている。
高齢化と相まる構造的課題
中小企業庁の統計によると、中小企業経営者の約6割は60歳以上で、後継者未定の企業も少なくない。
人手不足と経営者の高齢化が同時に進行することで、経営者は現場から抜け出せず、戦略的判断や新規事業検討のための「考える時間」が奪われる。
O氏も、「1日を振り返ると、判断ではなく“処理”だけで終わる日が続いていた」と話す。
忙しさが増す一方で、経営の手応えを感じにくい理由はこうした構造的問題にある。
外部の知見がもたらした転機
状況を変えるきっかけとなったのは、外部専門家の活用だった。税務や資金管理、業務フローを第三者の視点で見直すことで、O氏は「自分がやらなくても回る業務」を整理できたという。
「判断に使える時間が増えました。ようやく経営をしている感覚を取り戻せた気がします」
外部の視点は単なる業務効率化ではなく、経営者を現場の渦から引き上げる役割を果たす。
問われる「時間を生み出す経営」
人手不足倒産の増加と経営者の高齢化が進むなか、経営者個人の努力に依存する従来型経営には限界が見えている。
業務のアウトソーシング、権限委譲、業務プロセスの自動化――。こうした施策を通じて経営者が意図的に「考える時間」を確保できるかが、今後の中小企業経営を左右する分岐点になる。
忙しさをどう減らすのか。誰の時間を守るのか。数字が示す現実は、中小企業経営がすでに「構造転換の局面」に入っていることを物語っている。