2023年の総務省統計局労働力調査によると、15~64歳の非労働力人口は約1,394万人です。家族のなかに心身の不調以外の理由で働かない人がいる場合、親の相続の際にきょうだい間で揉めやすくなるケースも。事例をみていきましょう。※登場人物はすべて仮名です。
「生活保護は世間体が悪い…」命綱の年金月18万円・78歳父が死去。48歳長男と45歳姉、“43歳・引きこもり弟の扶養”を賭けた〈運命のじゃんけん〉 (※写真はイメージです/PIXTA)

きょうだいに「扶養義務」はどこまであるのか?

8050問題が深刻化する現代。事例のような、親亡きあとの「引きこもりのきょうだい」の世話を巡るトラブルは、決して珍しい話ではありません。感情的には「家族なんだから助け合うべき」といわれますが、法律的にはどこまでの義務があるのでしょうか。

 

1.法律上の「扶養義務」

民法第877条には、「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある」と定められています。これをみると、「やっぱりきょうだいには面倒を見る義務があるんだ」と思いがちですが、実は扶養義務には2つのレベルがあります。

 

◎生活保持義務:「自分と同じ水準の生活を保障する義務」

……夫婦間や、親が未成年の子どもに対して負います。自分の生活を犠牲にしてでも果たすべき強い義務です。

 

◎生活扶助義務:自分の生活に余裕がある範囲で助ける義務

……きょうだい間に適用される義務。

 

つまり、ケンイチさんやユミさんが、自分たちの家族の生活(住宅ローンや教育費など)で手一杯であれば、「自分の生活を犠牲にしてまで、ヒロシさんを養う法的義務はない」のです。 無理やり同居したり、借金をしてまで仕送りをしたりする必要はありません。

 

2.「見捨てる」ことの罪

では、じゃんけんで負けたケンイチさんが「やっぱり無理だ」とヒロシさんを突き放し、その結果ヒロシさんに万一のことがあった場合、罪に問われるのでしょうか。

 

基本的には、きょうだいが援助を断ったからといって、直ちに「保護責任者遺棄致死罪」などの罪に問われる可能性は低いです(※同居していて食事を与えないなどの虐待があれば別です)。きょうだいの扶養義務は、あくまで「余力があれば」という前提だからです。

 

3.「生活保護」申請と扶養照会

ヒロシさんが自力で生きられない場合、最終的なセーフティネットは生活保護になります。ヒロシさんが生活保護を申請すると、福祉事務所からケンイチさんやユミさんに「援助できませんか?」という通知(扶養照会)が届くことがあります。多くの人がこの通知を恐れますが、これは「援助を強制する命令書」ではありません。「自分の生活で精一杯なので、援助できません」と回答すれば、それ以上追及されることは少ないようです。

 

「世間体が悪い」「親族に知られたくない」という理由で、無理をして抱え込んで共倒れしてしまうケースがありますが、共倒れを防ぐためには、事実を伝えることも重要です。

「抱え込む」ことだけが選択肢ではない

事例のケンイチさんの最大の失敗は、じゃんけんをしたことではありません。「自分たち家族だけで解決しなければならない」と思い込み、外部の支援につながる選択肢を持てなかったことです。

 

40代以上の引きこもりを、家族の経済力だけで支え続けることには限界があります。本来必要なのは、どちらが引き取るかを決めることではなく、地域包括支援センターや生活困窮者自立支援制度の窓口に相談し、「家族ではもう支えきれない」というSOSを出すことでした。

 

きょうだいには、きょうだいの生活があります。同居や経済的援助が難しくても、福祉の窓口に同行したり、申請の手続きを手伝ったりすることはできます。「生活の面倒をみる」ことだけが扶養ではありません。公的な支援につなぐこともまた、きょうだいにできる最大限の役割なのです。