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きょうだいに「扶養義務」はどこまであるのか?
8050問題が深刻化する現代。事例のような、親亡きあとの「引きこもりのきょうだい」の世話を巡るトラブルは、決して珍しい話ではありません。感情的には「家族なんだから助け合うべき」といわれますが、法律的にはどこまでの義務があるのでしょうか。
1.法律上の「扶養義務」
民法第877条には、「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある」と定められています。これをみると、「やっぱりきょうだいには面倒を見る義務があるんだ」と思いがちですが、実は扶養義務には2つのレベルがあります。
◎生活保持義務:「自分と同じ水準の生活を保障する義務」
……夫婦間や、親が未成年の子どもに対して負います。自分の生活を犠牲にしてでも果たすべき強い義務です。
◎生活扶助義務:自分の生活に余裕がある範囲で助ける義務
……きょうだい間に適用される義務。
つまり、ケンイチさんやユミさんが、自分たちの家族の生活(住宅ローンや教育費など)で手一杯であれば、「自分の生活を犠牲にしてまで、ヒロシさんを養う法的義務はない」のです。 無理やり同居したり、借金をしてまで仕送りをしたりする必要はありません。
2.「見捨てる」ことの罪
では、じゃんけんで負けたケンイチさんが「やっぱり無理だ」とヒロシさんを突き放し、その結果ヒロシさんに万一のことがあった場合、罪に問われるのでしょうか。
基本的には、きょうだいが援助を断ったからといって、直ちに「保護責任者遺棄致死罪」などの罪に問われる可能性は低いです(※同居していて食事を与えないなどの虐待があれば別です)。きょうだいの扶養義務は、あくまで「余力があれば」という前提だからです。
3.「生活保護」申請と扶養照会
ヒロシさんが自力で生きられない場合、最終的なセーフティネットは生活保護になります。ヒロシさんが生活保護を申請すると、福祉事務所からケンイチさんやユミさんに「援助できませんか?」という通知(扶養照会)が届くことがあります。多くの人がこの通知を恐れますが、これは「援助を強制する命令書」ではありません。「自分の生活で精一杯なので、援助できません」と回答すれば、それ以上追及されることは少ないようです。
「世間体が悪い」「親族に知られたくない」という理由で、無理をして抱え込んで共倒れしてしまうケースがありますが、共倒れを防ぐためには、事実を伝えることも重要です。
「抱え込む」ことだけが選択肢ではない
事例のケンイチさんの最大の失敗は、じゃんけんをしたことではありません。「自分たち家族だけで解決しなければならない」と思い込み、外部の支援につながる選択肢を持てなかったことです。
40代以上の引きこもりを、家族の経済力だけで支え続けることには限界があります。本来必要なのは、どちらが引き取るかを決めることではなく、地域包括支援センターや生活困窮者自立支援制度の窓口に相談し、「家族ではもう支えきれない」というSOSを出すことでした。
きょうだいには、きょうだいの生活があります。同居や経済的援助が難しくても、福祉の窓口に同行したり、申請の手続きを手伝ったりすることはできます。「生活の面倒をみる」ことだけが扶養ではありません。公的な支援につなぐこともまた、きょうだいにできる最大限の役割なのです。