(※写真はイメージです/PIXTA)
「良かれと思って」全財産を投じた家が、家族崩壊の舞台に
「まさか、自分たちが建てた家で、あんな非情な言葉を投げつけられることになるとは、夢にも思いませんでした」
そう肩を落とすのは、田中健一さん(70歳・仮名)です。現役時代は地元の有名企業で働き、現在、退職金と預貯金を合わせて5,000万円程度の貯蓄があります。これからの老後を妻の裕美子さん(68歳・仮名)とどう過ごすか。話し合いの結果、出した結論は「長女夫婦との二世帯同居」でした。
「娘夫婦は駅前の賃貸マンションに住んでいましたが、子どもが二人になり手狭になっていました。ちょうど、私たちの家も建て替えるか、それとも将来を見据えて売却して夫婦で入居できるサ高住にでも、と話していた時期でした。娘夫婦と相談し、それならば二世帯住宅に建て替えようということになったんです。建築費の3,000万円は、私の退職金を全額充てました」
住宅ローンのない生活を娘夫婦にプレゼントし、自分たちは孫の成長を近くで見守る。それは健一さん夫婦にとって、理想的な終の棲家の形に見えました。しかし、完成した新居での生活が始まると、わずか半年で暗雲が立ち込めます。
最大の火種となったのは「キッチン」でした。コスト削減と交流のため、あえて共有にしたキッチン。しかし、専業主婦として長年「完璧な家事」をこなしてきた裕美子さんと、共働きで多忙な長女・あかりさんの価値観は、決定的に異なっていたのです。
「妻はとにかく綺麗好き。シンクに水滴一つ残したくないタイプです。一方、娘は仕事と育児に追われ、夜遅くに帰宅して料理をすれば、油汚れもそのまま。翌朝、妻がその惨状を見て、つい小言を言ってしまう。そんな日々が毎日続きました」
ある土曜日の午後、ついに事件は起きます。裕美子さんが「換気扇のベタつきが酷いから、もっとマメに掃除して」と注意した際、蓄積していたあかりさんの不満が爆発しました。
「こっちだって必死で働いてるの! 完璧を求めるなら、自分たちだけで住めばよかったじゃない!」
怒鳴り合いは婿も巻き込む大喧嘩に発展。ついには娘から「そんなに気に入らないなら、ここから出て行ってよ!」という、非情な言葉が投げつけられました。
「私が全額出した家なのに、こんなことになるなんて……もう少しお金をかけて、せめて完全セパレートにしておけばよかった」
子世代と再び快適に暮らすためには、さらに多額のリフォーム代がかかります。しかし、健一さんにはもう、そこまでの資金的な余裕はありません。