「親の定年」を宣言する勇気

筆者と一緒に行ったさまざまなライフプランシミュレーションの結果を経て、佐藤さん夫妻は、話し合いの末、決断しました。

「これからの20年は、私たち自身の人生を大切にしたい」「この家の使い方を、見直したい」

期限を決め、次男に独立を促すことにしたのです。かなり葛藤があったようですが、佐藤さん夫妻は「親の定年」を宣言することにしました。これは、子どもを突き放す行為ではありません。人生の優先順位を子どもではなく自分たちに戻した、前向きな選択です。

同居を続ける場合に守るべき「5つの分離」

成人した子どもとの同居が、すべて問題だというわけではありません。親子がお互いに納得し、生活の質を保てているのであれば、それは一つの選択肢です。しかし話し合いが先送りされるうちに同居が無期限の前提となり、親の老後生活のQOLが少しずつ削られていくケースなら、なんらかの対策が必要でしょう。

もし同居を続けるのであれば、必要なのは「我慢」ではなく、生活の分離です。同居しながらも、家計や家事の運営などの生活はわける。具体的には、同じ屋根の下でも、次のような線引きを明確化します。

家計の分離:毎月いくら入れるか、ではなく、家賃相当・光熱費・食費・日用品などを基準に、負担を明確化する

家事の分離:食事・洗濯・掃除を「親がやる前提」にしない。自分の分は自分で完結させる

時間の分離:食事時間や生活リズムを親に合わせさせない。親の外出・旅行・趣味の予定を最優先にする

空間の分離:共有スペースの使い方、個室の扱い、車の利用など、親の生活を侵食しないルールを決める

将来の分離:親の医療・介護・住まいの修繕など、いまある資金を「親のQOLを守るために使う」方針として明文化する

親にもまた、親自身のライフプランがあります。生活を分離するという考え方は、親が「これからどう暮らしたいか」を守り、子どもが「同居のままでも自立する」ための土台になるはずです。老後とは、「人生の残り」ではなく、ステージの変わったもう一つの大切な人生の時間ではないでしょうか。

残された時間やお金を、誰のために、どのように使うのか。定年後こそ、改めて問い直す必要があるのかもしれません。

内田 英子
FPオフィスツクル代表