実は年金額は年度ごとに改定されています。その元となる改定率が設定される目的は「賃金や物価を始めとする経済の諸要素に適応しながら、世代間格差を解消するため」という多角的な視点による精緻な設計がなされています。実際にこの改定率は効果を発揮しているのでしょうか。経済との関連をみてみましょう。本稿ではニッセイ基礎研究所の中嶋邦夫氏が、年金額改定の意義と改定に起因する2026年の経済的影響について詳しく解説します。
年金額改定の本来の意義は実質的な価値の維持-年金額改定の意義と2026年度以降の見通し (1) (写真はイメージです/PIXTA)

3 ――― 本来の改定ルールの基本的な意義:年金額の実質的な価値を維持するため

本来の改定ルールは、年金財政の健全化中か否かにかかわらず常に適用されるルールを指す。経済状況の変化に対応して年金額の実質的な価値を維持する、という年金額改定の基本的な役割を果たすための仕組みである。

 

2000年改正の前までは、受け取り始めるまでの(新規裁定の)年金額も受給開始後の(既裁定の)年金額も、約5年ごとの法改正によって、加入者全体の賃金水準の変化に連動して改定されていた3。これは、おおまかにいえば、年金受給者の生活水準の変化を現役世代の生活水準の変化、すなわち賃金水準の変化に合わせるためである。言い換えれば、現役世代と引退世代が生活水準の向上を分かち合う仕組みといえる。また、この仕組みは年金財政の観点からも合理的である。年金財政の主な収入は保険料で、これは賃金の水準に連動して変化する。このため、年金財政の支出である給付費も賃金に連動して変化させれば、年金財政のバランスは維持される。

 

3 毎年度の年金額は物価上昇率に連動して改定され、5年目に過去5年分の賃金変動率に合わせて改定される方式だった。

 

しかし、この財政バランスが維持される話は、現役世代と引退世代の人数のバランスが変わらない場合にしか成り立たない。少子化や長寿化が進む社会では、現役世代の人数が減って保険料収入が減り、引退世代の人数が増えて支出である給付費が増えるため、財政バランスが悪化する。そこで2000年改正後は、受給開始後(66歳以上)の年金額は物価水準の変化に連動して改定されることになった4。過去の経済状況では賃金の伸びよりも物価の伸びの方が低かったため、この見直しによって給付費の伸びを抑え、将来の保険料の引上げを抑えることが期待された。

 

4 諸外国の中には受給開始後の年金額を物価水準の変化に連動する国があることも、見直しの根拠とされた。

 

さらに2004年改正では、従来は法改正を経て行われていた年金額の改定を、予め法定したルールで毎年度自動的に行うことになった。これにより、年金額の改定がその時々の政治状況に左右されにくくなった。具体的なルールは図表2のように規定された。賃金水準の変化については、年金水準の過度な変動を抑えつつ物価変動にはなるべく早く対応するため、前年(暦年)の物価上昇率と実質賃金変動率の2~4年度前の平均を合わせた名目手取り賃金変動率が適用される形になった5。これに伴い、改正前と同様に64歳時点までの賃金変動率が年金額に反映されるよう、受給開始後でも67歳になる年度までは名目手取り賃金変動率が適用されることになった。 

 

5 前年度の実質賃金変動率が参照されないのは、改定率を決定する時点(改定率が適用される前年度の1月)では前年度が終わっておらず、判明する直近の実質賃金変動率が2年度前のものになるためである。なお、実質賃金変動率の計算では、各人の賃金の変動を反映するために、性・年齢構成の変化の影響は除去される。また、2020年の法改正により、2024~2029年度の実質賃金変動率の計算では、2022年と2024年に実施される厚生年金の適用拡大の影響も除去される。

 

[図表2]本来の改定ルールの原則