(※写真はイメージです/PIXTA)

クリニックの保健所立ち入り検査は、医療法に基づいて定期的に実施されます。この立ち入り検査の目的は、適切な医療環境の維持や受診患者の安全確保等の医療安全を目的としています。ほとんどのクリニックが指摘・指導を受けるといわれるこの検査ですが、事前の対策を徹底することで、再検査の可能性を大幅に減らすことができます。ここでは保健所立ち入り検査における主な指摘事項と、再検査予防のための具体的な対策について解説します。本連載は、コスモス薬品Webサイトからの転載記事です。

保健所立ち入り検査における主な指摘事項とその対策

保健所の立ち入り検査では、以下の項目がチェックされますが、事前になにを聞かれるかチェックしていくことが重要です。

施設・設備の管理

問いが多いのは、下記の内容です。

 

「こちらの施設の緊急時の対応や管理(鍵などの管理)はだれですか?」

「どのような医療機器がありますか」

「防水対策や災害対策はどのようなことをしますか?(断水時の対応、備蓄の水や食料の有無、停電時のバックアップの有無など)」

 

これらについて、警備会社やセキュリティ、停電時の対応を確認しておいたほうがよいでしょう。

清潔保持、消毒状況

想定される質問としては、

 

「クリニックの清掃の頻度と、対応する業者は?」

「使用予定の消毒薬の種類・濃度は?」

「消毒記録の帳簿はありますか?」

 

という定番のものです。

放射線管理

クリニックの保健所立ち入り検査において、放射線に関する質問は、医療法および関連法令に基づき、放射線防護と安全管理の観点から近年では執拗に審査が行われます。重要なのは、放射線管理区域に物品を入れないこと、そして漏洩検査の結果です。

 

1. 放射線機器の管理

●機器の設置状況

「放射線機器の設置場所は?」

「配置図はありますか?」

 

機器の設置状況、周囲の防護状況、事前の線量測定結果などを確認します。

 

●機器の保守点検

「定期的な保守点検は実施予定がありますか?」

「点検記録はありますか?」

 

機器の点検記録、線量測定結果、故障時の対応などを確認します。

 

●機器の安全管理責任者

「放射線機器の安全管理責任者は誰ですか?」

 

放射線に関する安全管理体制を確認します。

 

2. 放射線防護

●放射線防護具の管理

「放射線防護具(鉛エプロンなど)の管理状況は?」

「点検記録はありますか?」

 

防護具の設置場所、点検記録、使用状況などを確認します。

 

●放射線従事者の管理

「放射線従事者の線量測定はどの業者で実施予定ですか?」

 

従事者の線量測定の予定、健康診断記録、教育訓練の実施状況、線量測定の業者と記録などを確認。

 

●患者の防護

「患者への放射線防護はどのように行っていますか?」

 

患者への説明や防護具の使用、照射範囲の適切な設定などを確認します。

 

●放射線漏洩の防止

「放射線漏洩の対策はどのようにしていますか?」

 

遮蔽壁の設置、線量測定、警告表示、漏洩検査の実施予定などを確認します。

 

●放射線管理区域の表示

「放射線管理区域の表示は適切に行われていますか?」

 

管理区域の表示、立ち入り制限などを確認します。筆者はこのなかに点滴スタンドを入れていたことが発覚し、汚染源になるため他の医療機器は何ひとつ入れないよう厳しく指導されました。

 

●放射線測定記録

「放射線測定記録は保管していますか?」

 

測定結果、測定日時、測定場所などを確認します。

 

●放射線安全管理規定

「放射線安全管理規定は整備されていますか?」

 

規定の内容や周知状況などを確認します。

医療廃棄物の処理

「医療廃棄物の分別方法と処理業者は?」

「感染性廃棄物と非感染性廃棄物の保管状況は?」

「処理業者の委託契約書と処理記録はありますか?」

 

医療廃棄物の分別状況、保管容器の管理、処理業者との契約状況などを確認します。

 

また、バイオハザードマークの色と用途を念入りに質問されます。

 

赤色は血液などの液状、泥状の廃棄物であることを示し、保管、収集時の容器は密閉性が高く、廃液などが漏洩しないもの。橙色は血液が付着したガーゼ、紙くずなどが含まれ、丈夫なプラスチック袋を二重にして使用する。

 

黄色は感染性廃棄物のなかでも特に鋭利なものが該当し、注射器やメスなどを安全に収容するため、貫通耐性が高い容器を用いること等、適切な処理についての知識を身に付けたうえで対策を回答できるようにしましょう。

防火防災対策

「消火器の設置場所と点検記録は?」

「避難経路図はありますか?」

「定期的な避難訓練は実施していますか?」

 

消火器の設置状況、避難経路の確保、防災訓練の実施状況などを確認します。また、院長などが防火管理者の講習受講済かどうかも確認されます。

医療機器の保守点検

「医療機器の保守点検記録は?」

「定期的な点検は実施していますか?」

「医療機器の安全管理責任者は?」

 

医療機器の点検記録の用紙、保守契約の有無(ない場合には不可となるケースもあり)、医療機器の安全管理体制(年に1回は点検。長期休暇の前後でも院内でチェックすると答えるとよい)などを確認してください。

医療従事者の管理

「医療従事者の免許原本は確認しましたか?」

「それは何月何日、どこですか」

 

といった突っ込んだ点まで質問を受けます。

 

確認した、という証拠を紙の記録やスマートフォンやタブレットのスクリーンショットでもいいので、記録に残してください。模範解答は、クレジットカードでの本人認証のように、免許原本を持ったスタッフの写真(〇月〇日がわかる)が理想とのことでした。

健康管理

「入職予定の職員の健康診断記録はありますか? あるいは予定しておりますか?」

 

小児科が含まれている場合は、

 

「職員のワクチン接種歴(麻疹・風疹・水痘・おたふくなど)は掌握していますか?」

 

などと聞かれた例もありました。

 

職員の健康診断の記録や健康管理、予防接種記録を確認します。

診療録の管理

診療録の記載内容(患者情報、病名、治療内容など)、保管状況、個人情報保護対策などを確認します。電子カルテシステムでは、サーバー管理の方法も問われた例もありました。

薬品管理と管理記録に関して

薬品管理簿、滅菌記録、医療機器の点検記録など各種帳簿の記載内容と保管状況、管理体制などを確認します。各種帳簿(薬品管理簿、滅菌記録など)の整備状況なども聞かれます。

 

薬品に関しては「劇薬」「麻薬」に関しては、相当なセキュリティを持って管理することを求められます。これらの薬は、一般の薬品とは別に鍵付きで管理する必要があり、赤などの色で識別して、すぐにわかるようにする必要があります。また、鍵は管理者と一部職員のダブルチェックで管理・運用することが重要なポイントとなります。

感染症に対する医療安全対策

COVID-19が蔓延してから、標準予防策の実施状況に加えて、院内感染対策の実施、換気などに関しては、相当な質問が浴びせられます。

 

1. 標準予防策の実施状況

「標準予防策のマニュアルは?」

「手指消毒の実施状況は?」

「個人防護具の着用状況は?」

 

という定番の質問があり、手指消毒の実施状況、個人防護具の着用状況、感染対策マニュアルの整備状況などを確認します。

 

2. 感染性廃棄物の処理

こちらは、上述の医療廃棄物の処理を参照してください。

 

3. 院内感染対策委員会の設置

「院内感染対策委員会の設置状況は?」

「感染対策マニュアルはありますか?」

「定期的な会議は実施していますか?」

 

院内感染対策委員会の設置状況、感染対策マニュアルの整備状況、会議の開催状況や予定(6ヵ月に1回以上)で、だれが主催するか(院長自ら、あるいは医師会や連携する地域の医療機関での伝達講習でもOK)などを確認します。

 

上述の「標準予防策の実施状況」「感染性廃棄物の処理」「院内感染対策委員会の設置」の項目において、基準を満たしていない場合や不備がある場合には、指摘・指導が行われます。

医療安全管理体制

医療安全に関する基本的なルールや手順が文書化されているか、その内容が適切であるかについて聞かれることになります。

 

●医療安全管理責任者の配置

「医療安全管理責任者はだれですか?」

「医療安全管理責任者の役割と業務内容を説明してください。」

 

医療安全に関する責任者が明確に定められているか、その責任者が適切な知識と権限を持っているかを確認します。

 

●医療安全管理規程の整備

「医療安全管理のマニュアルはありますか?」

「規程の内容を説明してください」

 

このような質問を受けます。

 

●医療安全委員会の設置

「医療安全委員会は設置されていますか? 活動内容を説明してください」

 

医療安全に関する問題を検討し、改善策を講じるための組織が設置されているかを確認します。

 

●医療安全に関する研修の実施

「医療安全に関する研修はどのように実施予定ですか?」

 

職員が医療安全に関する知識と技術を習得するための研修が定期的に実施されているかを確認します。感染対策と同じく、年に2回実施することが必要となります。講義担当者は院長、あるいは医師会・近隣の病院からの講義伝達でOKです。

おわりに…再検査予防のための対策

開業時に保健所立ち入り検査では、ほとんどの例では指摘事項があったとしても、診療所開設の承認は得られます。ただ、再検査となると、その後の地方厚生局(診療報酬関連)の手続きに進めず、当初予定していた開業スケジュールがずれ込む可能性があります。

 

保健所の訪問に備え、院長はもちろん、勤務予定のスタッフの認識を高めておくとよいでしょう。

 

 

武井 智昭
株式会社TTコンサルティング 医師