長年コツコツと働き、贅沢もせずにお金を貯めてきた――。そんな堅実な生き方は、老後の安心につながるはずです。しかし、蓄えがいくらあっても「心の豊かさ」までは保証してくれません。気づけば、楽しみは通帳の残高を見ることだけ。人生の後半になってようやく「自分は何のためにお金を貯めてきたのだろう」と立ち止まる人がいます。今回は、節約を極めたひとりの男性が老後に抱えた“虚しさ”を通じて、ファイナンシャルプランナーの小川洋平氏がお金との向き合い方を解説します。
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通帳の残高が増えるのがうれしくて、うれしくて。〈資産5,000万円超〉筋金入りの倹約人生を歩んだ65歳元会社員。寒い冬、小さな部屋で独り「これでよかったのかな」ぽつりと零すワケ
筋金入りの倹約家。通帳を眺めて晩酌、資産5,000万円を突破したが…
金本陽介さん(65歳・仮名)は、地方の中小企業で40年以上働き続け、定年後は地方のワンルームマンションでひっそりと暮らしています。
若い頃から筋金入りの倹約家だった金本さん。「無駄なものに1円も払いたくない」――それは節約術というより、生き方そのものでした。
会社にはおにぎり2個と水筒に入れた水を持参。服は穴があくまで着て、エアコンは「命の危険がある日」以外は使わない。趣味も特になく、仕事から帰宅してひとり発泡酒で晩酌をしながら、通帳の残高がじわりと増えていくのを見ることが唯一の楽しみでした。
年収は50代でも400万円に届くかどうかという水準でしたが、焦りを感じたことはありませんでした。ずっと独り身で、飲み会も旅行もほとんど行かない生活。「自分ひとりが暮らすだけなら十分だ」と思っていたといいます。
そして、定年を迎えた今、親の遺産と退職金が加わり、気づけば手元には約5,000万円の金融資産。「これだけあれば、何があっても一生困らない」。金本さん自身もそう思っていました。
しかし、リタイアして数ヵ月が経つ頃、金本さんはふとした瞬間に湧き上がる“虚無感”に気づいてしまったのです。