厚生労働省「令和6年(2024)人口動態統計月報年計(概数)の概況」によると、2024年の離婚件数は約18万5,000件で、そのうち同居期間20年以上の夫婦による離婚は約4万件でした。こうしたなか、長いあいだ一緒に暮らしていた夫婦は、離婚後“想定外の事態”に頭を悩ませるケースも少なくないようです。50歳の夫と48歳の妻の事例をもとに、熟年離婚の原因と家計管理の注意点をみていきましょう。
私の老後はどうするの!? …年収800万円・50歳夫の小遣いは「2万円」家計を支配してきた“鬼嫁”の後悔【CFPの助言】
専業主婦の妻が“素直に”離婚に応じたワケ
実は絵里さん、夫の小遣いを削って捻出したお金のほとんどは「へそくり」として自分名義の預金通帳に積み上げていたのです。その額はいま、800万円を超えています。
(ちょうど1人でのびのび暮らすのもいいなあと思っていたのよね。まだ40代だし、就職先も見つかるでしょ)
こう考えた絵里さんは、離婚を承諾したのでした。しかし絵里さんは、勝ち誇った表情で夫に釘をさすことを忘れません。
「離婚はいいけど、あなたに渡すお金はほとんどないから」
「えっ……」
絶句する聡一さん。
「……でも、住宅資金があるだろう?」
「あぁ、あれね。あのお金は私名義の預金になっているから」
岸本家には、長年「住宅資金」として積み立ててきた貯金1,200万円がありました。定年後、退職金と預金を元手にキャッシュで住宅を買おうと話し合っていたのです。その住宅資金を、絵里さんは自分名義の預金にしていたのでした。
離婚時の「財産分与」のキホン
絵里さんは「岸本家の貯金を自分名義にしておけば、すべて自分のものになる」と考えていますが、果たして本当にそうなのでしょうか。
結論からいうと、そう上手くはいきません。
財産分与は、名義にかかわらず婚姻中に築いたすべての資産が対象になります。現預金や有価証券、自動車、不動産といったプラスの財産だけでなく、ローンや債務などのマイナスの財産も分与の対象です。
岸本家には負債がなく、持ち家もないため、資産は現預金のみでした。よって、絵里さん名義のへそくり800万円も住宅資金の1,200万円も、婚姻中に築かれた資産であり、聡一さんとの共有財産にあたります。
つまり、絵里さんがもらえる金額は2,000万円ではなく、半分の1,000万円になるということです。
後日、この事実を聡一さんから伝えられた絵里さんは酷く焦りました。
貯金は折半、仕事もなく、住む家も見つかっていません。夫婦で暮らしていた賃貸マンションにそのまま住み続けるのは、無収入の絵里さんには負担が重すぎます。
「ねぇ、わたしを見捨てるつもり!? 老後はどうすればいいのよ!」
「なんの話? いままで頑なに働いてこなかったのに半分渡すんだから十分だろ。全部の絵里の自業自得だよ」
堪忍袋の緒が切れた聡一さんは、これまで我慢してきた言葉を投げつけたのでした。