退職金という大金を手にした際、その運用に迷う人は少なくありません。 プロの助言を信じて投資に踏み切ったとしても、日々の相場変動による不安はつきものです。しかし、投資の結果において「笑う人」と「泣く人」を分けるのは、実は非常にシンプルな行動の差でした。ある男性のケースを見ていきます。
「銀行員が勧めるなら安心だ」退職金3,000万円をすべて注ぎ込んだ60歳男性。3年後、アプリを見て「ウソだろ…」と絶句したワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

「銀行の言う通りにして大丈夫か?」眠れぬ夜を越えて

3年前に長年勤めたメーカーを定年退職した佐藤健一さん(63歳・仮名)。 住宅ローンは完済しており、手元には退職金として受け取った3,000万円が残りました。その3,000万円を全額、投資に回したというから驚きです。

 

「正直、怖かったんです。急激な物価高が始まったころで、銀行にただ預けていてもお金の価値は目減りしていくばかりだ、というニュースを見ました。『老後2,000万円問題』なんて言葉もありましたし、退職金の3,000万円を何とかできないものかと。そんな時、メインバンクの担当者から連絡をもらったんです」

 

それは、退職金の運用についての、いわゆる営業電話でした。現役時代であれば「忙しいので」と断っていたでしょう。しかしそのときは、「暇だし、話くらい聞くか」という余裕がありました。

 

「担当の銀行員は熱心で、外国株式に投資する投資信託を勧めてきました。『これからは世界経済の成長を取り込むべきです』『長期で持てばリスクは抑えられます』と。 ネットで調べると『銀行の手数料は高いからやめとけ』という意見も多くありましたが、私は投資の素人です。自分で銘柄を選ぶ自信もない。それなら『プロである銀行員が勧めるなら安心だ』と、思い切って退職金3,000万円をすべて、そのファンドに注ぎ込みました」

 

このような大胆な行動がとれたのも、退職金とは別に老後資金を確保していたからでした。 「最悪、ゼロになっても何とかなる」「少しでも老後の不安がなくなる可能性があるなら」。そのような気持ちで、一種の賭けに出たといいます。

 

「投資して間もなく、相場が下落した時期がありましたから。通帳やレポートの数字が数百万円単位で減っているのを見たときは、冷や汗が止まりませんでした。『ただ貯金しておけばよかったのに!』と妻に怒られたこともあります。 解約しようと思ったこともありますが、担当者が『今は我慢の時です。絶対に売らないでください』と言うので、その言葉を信じました。それからはもうアプリを見るのはやめて、3年間ほったらかしにすることにしたんです」

 

その後、2023年末には基準価額は少し回復し、2024年にはトータルでプラスリターンに転じました。 そして2025年の夏ごろ、株価が上がっているというニュースを聞き、久々にアプリを開きました。

 

「『ウソだろ……』と声にしたあと、言葉が出てきませんでした。1,000万円以上も増えていたので……腰を抜かすほど驚きました。あのとき、恐怖に負けて売らずにいて本当によかったと思いました」