いったいなぜ…突然「沖縄移住」を宣言した父

――ある日、都内のメーカーに勤める京介さん(仮名・51歳)のもとに届いた父の訃報。その電話は、遠く離れた沖縄からでした。

父の清さん(仮名・享年78歳)は、埼玉生まれ埼玉育ち。地元の企業で新卒から定年まで経理一筋で勤め上げた、まじめで厳格な人物でした。

そんな清さんが突然「沖縄に住みたい」と言い出したのは約3年前のこと。長年連れ添った母が亡くなり、父が一人暮らしになって数年が経ったころのことです。

「どうして75歳のこのタイミングで沖縄に移住なんだ。親戚も友人もいないだろ?」

京介さんの問いかけにも、清さんの決意は揺らぎませんでした。

「75歳のいまだからだよ。後期高齢者になって、自分の終わりを考えるようになったんだ。最後くらい好きに生きさせてくれ」

清さんは息子の反対を押し切り、実家を売却してまで沖縄に移住してしまいました。

父の充実ぶりに、息子の心境も変化

青く美しい海、地元の人たちとの釣りやバーベキュー、習い始めた三線……。移住後の清さんからは、毎週のように近況報告が届きました。

「沖縄はいいぞ。お前も家族を連れて遊びに来い」

電話の向こうから聞こえてくる父の声は、これまで聞いたことがないほど明るく弾んでいます。

「あんなに寡黙で頑固だった親父が、別人のように生き生きしている。第二の人生として、思い切って移住してよかったのかもしれないな」

移住前は必死に引き止めていた京介さんでしたが、清さんのあまりの充実ぶりに、しだいにその気持ちが変化してきました。

――ところが、その平穏は、そう長くは続きませんでした。