偽造インゴット詐欺事件から考える
先日、驚くべきニュースが報じられました。なんと密輸や特殊詐欺で入手したとみられる金のインゴット(金地金)に、実在する大手貴金属取扱業者の偽の刻印を押し、正規品に見せかけて販売していたグループが摘発されたのです。
警視庁によれば、このグループは正規流通品を装った金地金の売買で約95億円もの売却益を得ていたとされ、犯罪収益のマネーロンダリング(資金洗浄)も狙っていた疑いがあるとのことでした。
金は「安全資産」とも呼ばれ、世界中で資産保全の手段として親しまれています。しかしこの事件は、「本物に見えるインゴットでも偽造の可能性がある」という衝撃的な事実を示したのです。
こうしたなか、特に金投資をはじめて検討する人は「金の現物投資はなにを選べばいいのか」と悩むでしょう。そこで今回は、インゴットと金貨の違いを解説し、なぜ信頼性の面で金貨(地金型金貨)が圧倒的に有利なのかをお伝えします。
大切な資産ですから、「増えればそれで良い」ではなく、安全に安心して育てていきましょう。
インゴットと地金型金貨の違いとは?
まずは、インゴットと地金型金貨の基本的な違いを押さえましょう。
インゴット(金地金、いわゆる延べ棒)は、純金を一定の形(バー状など)に加工し、メーカー(貴金属精錬業者)が刻印を施したものです。刻印にはメーカーのロゴや純度(たとえば「999.9」)、重量、シリアルナンバーなどが含まれ、これらによって品質が保証されています。
国際的な信頼を得たメーカー(LBMA認定の精錬所など)のインゴットであれば基本的に品質はたしかで、市場で広く受け入れられるものです。
ただし、今回の事件のように刻印そのものを偽造されてしまうリスクはゼロではありません。刻印を見ただけでは専門家でも真偽の判断が難しいケースもあり、初心者にはなおさら判別がつきにくいでしょう。
一方、地金型金貨とは投資用に発行される金貨のことで、各国政府の造幣局が鋳造し品質(含有する金の量や純度)を保証する正式な貨幣です。たとえばカナダのメイプルリーフ金貨やオーストリアのウィーン金貨、イギリスのブリタニア金貨、オーストラリアのカンガルー金貨などが有名ですね。
これらは法定通貨(Legal Tender)でもあり、発行国の信用を背景に作られているため信頼性が高く、世界中で投資資産として人気があります。造幣局が直接品質を担保している点で、民間企業が製造するインゴットとは大きく異なります。
さらに金貨は基本的にデザインが細かく高度な製造技術で作られているため、素人目にも偽物との違いがわかりやすい利点があります(極端に粗雑な造りの偽造金貨はすぐ見抜けるでしょう)。
インゴットよりも金貨が安心な理由
信頼性という観点では、インゴットより地金型金貨に軍配が上がります。先述のとおり、金貨は国家の公的機関(造幣局)が発行しており、公的なお墨付きがあります。
インゴットも信頼できる業者の製品であれば価値は同じ純金ですが、「所詮メーカーが作ったもの」であるため、最終的な信用はそのメーカーや販売業者に依存します。
今回の偽刻印事件では、犯罪グループが一度溶かした金を延べ棒に加工し直し、架空または実在企業のロゴと偽シリアルナンバーを刻印して売りさばいていたと報じられています。
通常、貴金属店はインゴット購入時に刻印をチェックして真贋を判断しますが、その刻印自体が偽造されていては見抜くのが困難です。その点、金貨であれば最初から精緻なデザインと公的な刻印があり、疑わしい粗悪品は一目で「偽物かも?」と気づきやすいのです。金貨はデザイン自体がセキュリティの一部ともいえます。
さらに近年発行されている地金型金貨のなかには、高度な偽造防止技術が施されているものもあります。その代表格がイギリスのブリタニア金貨です。ブリタニア金貨は古くから人気のある地金型金貨で、2021年発行分から表面デザインに4種類もの最先端のセキュリティ加工が追加されました。
具体的には、角度を変えると三叉の槍(トライデント)のマークが南京錠に変化する「潜像」、縁に極小の文字で刻まれたマイクロテキスト(“DECUS ET TUTAMEN”「装飾と保護」の意)、ユニオンジャックが描かれた盾を構成する極めて細かな線刻(ティンクチャーライン)、背景に施された波模様のサーフェイスアニメーション加工(角度によってまるで波が動いて見える特殊効果)といった高度な偽造防止技術が盛り込まれています。
肉眼でもキラキラと変化が分かるため面白いですし、購入時に「本物かな?」と心配になる初心者にとっても大きな安心材料になるでしょう。実際、ブリタニア金貨は「世界で最も視覚的に安全な地金型コイン」と称され、こうした特徴から近年さらに人気と信頼を高めています。
地金型金貨で安心・安全に資産形成を
結論として、信頼性・安心感を最重視するならインゴットよりも地金型金貨がおすすめです。
たしかに金貨はインゴットに比べてデザイン製造コストや流通コストが上乗せされているため、同じ重さなら価格は若干割高になる傾向があります。
しかし、「安かろう悪かろう」で大事な純金が偽物だったり、犯罪に巻き込まれたりしたら元も子もありません。グラムあたりの単価が多少高くなっても、公的機関発行の金貨というお守り代だと考えれば決して高くないでしょう。
実際、多くの投資家が資産保全の安心感を求めて地金型金貨を選択しています。特にブリタニア金貨のように偽造対策が万全なコインであれば、初めて金の現物を手にする人でも安心して購入できるでしょう。
最後に、信頼できる購入先・売却先を選ぶことの重要性にも触れておきます。金貨を買う店・売る店が信用できなければ適正な価格での取引をしてもらえないリスクがあります。
幸い、日本には老舗の貴金属商やコイン専門店など信頼性の高い業者が多数ありますので、口コミや実績を確認しながら選ぶといいでしょう。公式の造幣局発行コインだからといって過信せず、自分の資産は自分で守る意識も大切です。
大切な資産だからこそ、安心・安全に育てていきたいもの。地金型金貨という「安心のタネ」を上手に活用し、皆さんの黄金の未来をしっかり守って育てていってくださいね。
小川 竜一
コインパレス 公式アンバサダー
アールトラスト・インベスターズ株式会社 代表取締役



