(※写真はイメージです/PIXTA)

数年間で金(GOLD)の価格が2倍以上に跳ね上がった結果、製造が追いつかず国内外の大手ディーラーが金地金の販売を一時停止する事態となっています。銀行や機関レベルの買い占めが行われるなか、庶民のあいだでは限りある金の争奪戦まで秒読みといえそうです。今回は投資全般の視点から“金争奪時代”の意味や地金型金貨の魅力をアールトラスト・インベスターズ株式会社代表取締役の小川竜一氏が解説していきます。

目次
金(GOLD)が「買えなくなる」時代?
金価格が高騰する背景
中央銀行と投資家が買い続ける
供給の絶対的な少なさと通貨への不信
一般市民レベルで進む“金(GOLD)争奪戦”
金が「いつものスーパー」で売り切れる時代
インフレと将来不安が背中を押す
「インゴット」より「地金型金貨」を選ぶ理由
大きくて割りにくいインゴット
地金型金貨は扱いやすく流動性が高い
「金しかない」は危険
高すぎる価格予測には要注意
保管と売却のコストも忘れずに
小川の過去セミナーで学べること
“争奪戦”は始まったばかり

金(GOLD)が「買えなくなる」時代?

最近のニュースで、国内外の大手ディーラーが金地金の販売を一時停止する事態が報じられました。

 

日本でも、田中貴金属工業や三菱マテリアルでは一部インゴットの製造が追いつかず、店頭販売を制限せざるを得ない状況にあるとのこと

※参考:田中貴金属工業株式会社「【重要】資産用地金(小型地金)販売一時停止について

 

「金が買えない時代が来るのでは?」という声も聞かれ、一般市民レベルでの“争奪戦”が現実味を帯びています。

 

世界に目を向けると、金価格は数年間で2倍以上に跳ね上がり、2025年10月には1オンス4,000ドル超と過去最高値を記録しました。

 

この高騰の背景には中央銀行や機関投資家の大量買い、インフレへの懸念、地政学的リスクの高まりがありますが、一般の投資家にとっても他人事ではありません。

金価格が高騰する背景

中央銀行と投資家が買い続ける

金需要が世界的に急増しています。

 

ロンドンの貴金属専門家によると、2022年以降の金価格は2年足らずで2倍以上に跳ね上がり、2025年10月には1オンス4,000ドル超と史上最高値を更新しました。

 

このラリーを支えているのは、主に「中央銀行」と「投資家」です。

 

ロイターによれば、各国の中央銀行はロシアの外貨凍結をきっかけにドル依存からの脱却を進め、2022年以降、毎年1,000トンを超える金を購入し続けています。

 

世界的な調査機関ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)によると、2025年第2四半期の総需要は前年同期比3%増の1,249トンに達し、価値ベースでは45%増の1,320億ドルと過去最高を記録しました。ETFへの資金流入やバー・コイン投資の急増が需要を押し上げ、バーやコインへの投資は2013年以来の強さとなっています。

 

一方、供給はわずかに伸びたものの、第2四半期の世界の金供給は前年同期比3%増にとどまり、鉱山生産の増加は909トンと記録的な水準だったものの、需要の急増を埋めるには不十分でした。

 

WGCは「リサイクルが過去最高の価格にもかかわらず低調だった」と指摘し、インドでは古いジュエリーを担保にして資金を調達する例が増えていると述べています。

 

供給の絶対的な少なさと通貨への不信

金が安全資産とされる理由の一つは、その希少性にあります。

 

ガーディアン紙は、世界でこれまで採掘された金をすべて集めても、一辺22メートルの立方体に収まる量にすぎず、年間の供給増加率は約1.7%と極めて低いと報じています。地球科学者の言葉を借りれば、「地質学には量的緩和がない」のです。

 

また同紙は、中央銀行の金購入が続き、資産運用業界における金の保有比率が依然低いことから、まだ上昇余地があるとする専門家の見方を紹介しています。投資家が米ドルや国債よりも金を選ぶ背景には、米国の金融政策への不信や貿易戦争への懸念もあります。

一般市民レベルで進む“金(GOLD)争奪戦”

金が「いつものスーパー」で売り切れる時代

金への需要は富裕層だけの話ではありません。

 

米国の会員制スーパー「コストコ」は2023年から24Kゴールドバーの販売を開始しましたが、在庫は発売と同時に売り切れ、オンラインでも数時間で完売する状態が続いています。

 

需要の過熱を受けて、同社は2025年に購入制限を導入。以前は1回の取引で2本まで購入可能でしたが、現在は「1会員につき1日1回、最大2本まで」と制限しています。

 

オンラインで販売されている1オンスゴールドバー(南アフリカのランド精錬所製やスイスのパンプ社製)は、2023年に約2,000ドルだった価格が2025年には3,800ドル前後へ上昇し、従来の約2倍にまで値上がりしています。

 

世界各地で同様の現象が起きています。

 

欧米では金貨やゴールドバーを販売する倉庫型小売店が軒並み売り切れとなり、インターネットでは「金を買える店を教えてください」という書き込みが増えています。

 

日本でも金地金の在庫が薄くなり、地金店が販売を停止したことで「金が買えない」と話題になりました。

 

長期的な価値保存手段としての金への注目が、一般市民レベルにまで波及している証拠と言えます。

 

インフレと将来不安が背中を押す

金を手に入れようとする動きは、世界的なインフレや金融システムへの不安が背景にあります。

 

物価上昇が賃金に追いつかない状況では、預金や現金の価値が目減りします。「実物資産」を持つことが将来の生活防衛につながるという感覚が広がり、古くから価値の基準とされてきた金に注目が集まっているのです。

 

さらに、米国の金融政策に対する不信感や米ドルの信認低下が進むなか、通貨分散を図る動きが加速していることも大きな要因でしょう。

「インゴット」より「地金型金貨」を選ぶ理由

大きくて割りにくいインゴット

多くの人が「金=インゴット(金の延べ棒)」をイメージします。

 

インゴットは製造コストが低く、グラム当たりの価格(プレミアム)が安いというメリットがあります。しかし、そのサイズは一般的に1キログラムや500グラムと大きく、いざ資金が必要になったときに一部だけを売却することができません。

 

また、国内メーカーが供給を絞った結果、店頭での在庫が枯渇しやすいこともあり、最近は小型インゴットですら品薄が続いています。金の売買手続きには本人確認や精錬証明書などが必要なため、初めての人にはハードルが高いかもしれません。

 

地金型金貨は扱いやすく流動性が高い

そこで注目したいのが「地金型金貨」です。

 

これは政府公認の金貨であり、品位(純度)が高く投資用としてデザインされた金貨を指します。地金型金貨は1オンス(約31.1グラム)や1/2オンス、1/4オンスなど小さい単位で発行されるため、ライフスタイルに合わせて少しずつ購入したり、必要な時に一部だけ売却したりできます。

 

金貨はバーよりも流動性が高く、必要な分だけ売却できる利点があります。

 

つまり「金貨は一枚単位で換金できるが、ゴールドバーは必要額以上を売らなければならない場合がある」のです。この柔軟性が、特に小口の投資家にとっては大きな魅力です。

 

また、地金型金貨は発行元の政府が保証しているため、真贋の確認や買い手の安心感という点でも優れています。インゴットの場合、売却時に鑑定や再溶解の手数料が差し引かれることがありますが、地金型金貨は世界中で認知度が高く、買い取り価格が明確です。

 

さらに、金貨は美術品としての要素も持ち合わせており、プレゼントや資産の継承にも利用できます。

 

一定のプレミアム(製造費)が上乗せされる点はデメリットですが、昨今の品薄状況を考えると、少額から柔軟に保有できる金貨のほうがメリットは大きいと言えるでしょう。

「金しかない」は危険

ここまで金の魅力を強調してきましたが、ポートフォリオを金だけに偏らせることは避けましょう。

 

ガーディアン紙は、金価格が45%上昇した2025年でも「市場が過熱しており、急な調整のリスクがある」と警告しています。

 

長期的には値上がりが期待できるとはいえ、金は利息や配当を生まない資産です(「通貨としての金」を認識できている投資家は、“利息や配当がない”意味をご理解いただけていることでしょう。その場合に限り50%以上の保有でもOKです)。

 

株式や債券、不動産などと組み合わせて分散投資を行うことで、リスクを抑えながら資産を守ることができます。

 

高すぎる価格予測には要注意

「金は将来1オンス1万ドルを超える」といった予測を耳にすることも増えました。

 

投資家のジェームズ・リカーズ氏は金価格が2026年までに15,000ドル、さらには27,500ドルになると予想していると報じられました。

 

しかし、フィンボルドの記事はこの予測が新たな金本位制を前提にしたモデルに過ぎず、現在のトレンドを反映していないと指摘しています。

 

極端な価格予測に振り回されるのではなく、自分のライフプランに合った金の保有量を決めることが大切です(こちらも先ほどと同様に「通貨としての金」を認識できている投資家は強気で買い込んでいくことを推奨します)。

 

保管と売却のコストも忘れずに

金は自宅で保管しましょう。銀行など第三者機関の貸金庫は絶対にNGです。

 

どうしても自宅管理が不安な人は、ショップの保管サービスの利用をお勧めします。

 

また、保有形態(地金型金貨、インゴット、ETFなど)を選択するのも一手です。ETFや金価格連動型の投資信託を利用すれば、保管の心配なく金価格に連動した運用が可能ですが、金そのものを保有する安心感は得られません。

 

それぞれの特徴を理解し、自分に合った方法を選びましょう。

小川の過去セミナーで学べること

金投資だけでなく、資産全体のバランスの取り方やリスク管理についても学んでいただけるセミナーを開催しています。過去のセミナーでは、

 

  • 中央銀行の動向や金価格の長期的なトレンド分析
  • 金貨・インゴット・ETFのメリットとデメリット
  • インフレや為替リスクに備えるポートフォリオ構築

 

などを取り上げてきました。ブログでは伝えきれない具体的なノウハウや最新データも共有していますので、ぜひご視聴ください。

“争奪戦”は始まったばかり

世界経済の不確実性が高まるなか、金は再び脚光を浴びています。

 

各国の中央銀行が過去に例を見ないペースで金を買い続ける一方、個人投資家もインフレ対策や資産防衛の手段として金に注目しています。

 

供給が限られていることに加え、輸送や精錬のキャパシティ不足が重なり、金地金が店頭から姿を消すことすら起きています。

 

こうしたなかで、一般市民レベルでの“金(GOLD)争奪戦”が始まったといえるでしょう。

 

金を買うならインゴットだけでなく、小回りのきく地金型金貨も検討してみてください。

 

金貨は小口で購入・売却でき、流動性が高く、政府保証付きで安心です。またご自身の性格に合わせて、株式や債券、不動産などと組み合わせた分散投資が重要です。日々の暮らしと将来のライフプランを見据えて、少しずつ資産を積み上げていきましょう。

 

最後に、金の市場は常に変化しています。日々の価格動向や中央銀行の動きなど、最新情報を継続的にウォッチすることが大切です。

 

これからの投資の旅路に、地金型金貨がそっと寄り添う心強いパートナーとなることを願っています。

 

 

小川 竜一

コインパレス 公式アンバサダー

アールトラスト・インベスターズ株式会社 代表取締役

〈参考文献・情報源(※一部抜粋)〉

1.田中貴金属工業株式会社「【重要】資産用地金(小型地金)販売一時停止について」(2025年10月7日)