「会話はできるのに、片付けができない」「なにを聞いても『どうでもいい』という」――。独居の親にみられるこうした変化を目の当たりにすると、真っ先に疑うのは認知症かもしれません。しかし原因は、認知症に限らないこともあって……。本記事では、Aさんの事例とともに親の老いへの備え方について、FPオフィスツクル代表・内田英子氏が解説します。
「認知症じゃなかったの…」42歳娘、涙。ゴミ屋敷と化した実家に引きこもる、“もともと社交的だった”年金生活・69歳父の真相【FPの助言】
驚愕の診断結果…娘の目からあふれた涙
「このままではいけない」と感じたAさんは、嫌がる父を説得し、心療内科を受診させることにしました。
医師から告げられた診断名は、「老人性うつ(うつ病)」でした。 環境の変化や役割の喪失、配偶者の不在などが引き金となり、高齢者の気力や食欲を奪う病気です。
「お父さん、寂しかったんだね……。ごめんね、私、お母さんのことでいっぱいいっぱいになってて……」
診断を聞いたAさんの目から、涙があふれました。父の変貌の原因が「認知症」ではなく、孤独や喪失感からくる心の病だったという真相を知り、気づいてあげられなかった後悔と、原因がはっきりした安堵が入り混じった涙でした。
「年だから」で片づけると、暮らしとお金が崩れ始める
高齢の親の変化を目の当たりにしたとき、「年のせいだよね」と片づけたくなるものです。 しかし、「生活」という視点でみると、心のエネルギー低下は次のようなリスクにつながる可能性があります。
ゴミ屋敷化 → 転倒・火災リスク
食生活の乱れ → 健康悪化
気力の低下 → 体力低下・ひきこもり
家計管理ができなくなる → 税金や公共料金の滞納、詐欺被害
医療・介護費の増加や、最悪の場合、不注意による火事などで住まいを失う事態にも繋がりかねません。健康や住まい、お金へと、「暮らしの連鎖的な崩壊」を引き起こす問題なのです。
高齢親の「老い」を感じたら…まずは“暮らしとお金”、3つの対策を
もし自分の親をみていて、「精神的に弱くなっているのかも?」と思ったとき、家族としてはどのようなことをすべきでしょうか。FPとしての経験から、最初に整えるべきと考えるのは、以下の3つです。
1.大きなお金の判断は“保留”にする
気持ちが落ち込んでいるときは、判断力が鈍りがちです。早く楽になることだけを考えてしまい、視野が狭くなり、短絡的な思考に陥ってしまうことも。たとえば、下記のような大きなお金の決断には注意が必要です。
- 住み替え
- 長年続けてきた保険の解約や運用資産の売却
- 高額なお買い物
- 長期的な契約となるサブスク契約の乗り換え
こうした“大きな判断”は保留とし、あらかじめ「まず〇〇に相談する」と、家族内でルール化しておくと安心でしょう。必要に応じて、専門家の力も借りると安心です。
2.お金の流れを“できるだけシンプル”にする
日々の定期的な支払いにも注意が必要です。お金の流れが複雑になりすぎていないでしょうか。たとえば下記のような状態に心当たりがあれば黄色信号です。
- 年金の振込口座と光熱費や通信料などの引き落とし口座がバラバラ
- 複数の銀行口座を使い分けている
- クレジットカードを日常的に利用している
- 支払いが必要な税金がある
- レンタルしているものがある
こうした複雑さは、将来のトラブルにつながることもあります。事前に下記のような対策を行っておきましょう。
〇主要な支払いを同じ口座に集約する
〇使っていない銀行口座やカードは解約する
〇年間の支払いスケジュールを把握する
〇契約状況を確認する