「お父さん、家の中どうなってるの…?」

Aさん(42歳)の父は若いころ、人付き合いも多く、仕事仲間との交流を生きがいに、管理職として忙しく働いていました。現役時代の生活は“仕事中心”。しかし、65歳でリタイアしたあとは多くのつながりが切れ、父が70歳を目前に控えた現在となっては、会話の相手は母やAさん以外にほとんどいなくなってしまったようです。

そのようななか、母が持病の悪化により、入院することに。1ヵ月経ち、Aさんは母のお見舞いにはこまめに行っていたものの、実家に帰ってくるのは久しぶり。玄関を開けた瞬間、かび臭いにおいがして、思わず足を止めました。

玄関は一見すっきりしています。ですが、居間にはゴミ箱から溢れ出したゴミが散乱。キッチンも分別されていないままの汚れたスーパーのパックの容器や割り箸、ペットボトルやお酒の空き缶などで埋め尽くされ、ガスコンロの上まで塞がっている状態でした。かろうじて洗濯は回している様子でしたが、取り込んだ洗濯物は廊下に放置されたまま。埃をかぶって、しわしわになっているものも目立ちました。

「……お父さん、これじゃゴミ屋敷じゃない……。ちょっと、どうしたの?」

振り向いた父は髪が乱れ、表情には元気がありません。仕事を生きがいにしていた姿とは、まるで別人のようでした。

Aさんの頭には真っ先に「認知症」という言葉がよぎります。

「認知症にしては、ちょっと違う」娘が感じた違和感

しかし、話してみると日付や記憶も問題なく、計算もスムーズで会話も成立します。「認知症じゃなかったの……?」 Aさんは戸惑いました。

「お金に困ってるの? 買い物に行けないならヘルパーさんを頼もうか?」 Aさんがそう尋ねると、父は力なく首を横に振りました。

「心配ないよ。退職金も手つかずだし、年金も母さんと合わせて月28万円入ってくる。金には困ってない」

金銭的な不安はないはずの父。しかし、続けてこう漏らします。

「別に外に出たいと思わんのよ」「なにを食べたいって聞かれても、……特にない」「片づけなきゃとは思うんだけどねえ……」と気力の落ちたような言葉ばかり。