佐藤さんに突然訪れた、恐ろしい異変

「仕事がない」というだけで、生活習慣は驚くほどに乱れました。退職して3ヵ月が過ぎた頃には朝から酒を飲むようになった佐藤さん。最初は缶ビール一本だけでしたが、それはすぐにウイスキーのボトル一本へと変わっていきます。

朝から晩まで子どもの頃、若い頃に好きだったドラマやアニメを見続け、ソファでそのまま寝落ちして朝を迎える日が続いていました。

FIREしても資産は減らず、むしろ市場環境に恵まれ、なにもせずとも運用益が膨らんでいきました。お金に困らない生活を送る佐藤さんは、これまであまり縁のなかった夜の街にも足を運ぶようになりました。

自由に飲み歩き、遊び、帰宅は深夜――。そんな生活が半年ほど続いたある朝。佐藤さんは目を覚ますと強烈なめまいに襲われました。立ち上がることもできず、吐き気が止まりません。

少し落ち着いてからタクシーを呼び救急外来に行くと、医師からこう告げられました。

「自律神経のバランスが完全に崩れています。朝から晩まで飲酒、深夜の外出、昼夜逆転の生活で交感神経が過剰に働き続けたことが原因です」

一週間ほどで回復したものの、医師の言葉は重くのしかかりました。佐藤さんはこれまでの生活を思い返し「このままだと身体を壊してしまう」と気づいたのです。

初めて引退後の生活に“危機感”を抱いた瞬間でした。身体を動かさなければと考えた佐藤さんは単発のアルバイトを探し、まもなく食品卸業者の倉庫で荷分けの肉体労働をすることになりました。最初は全身が悲鳴を上げましたが、仕事を続けるうちに身体が慣れていき、気がつけば頻繁にシフトを入れるように。

帰宅すると疲労で夜の街に行く気力も無く、近所の飲食店で夕飯を済ませ晩酌をして、帰宅して風呂に入り眠るという質素な生活に戻っていきました。

半年が経つ立つ頃には若いバイト仲間や社員たちとも馴染み、元のマジメな性格からフォークリフトの資格を取りました。職場でも働きぶりが認められた結果、前職を退職してから2年足らずで再就職することになったのでした。