キヨエさんが隠し通していた“ある秘密”

箱のなかには、2冊の預金通帳が入っていました。1冊目には年金の振り込みや光熱費の引き落としなどが記されており、日常生活用の口座だったことがうかがえます。

そして、もう1冊は定期預金の通帳でした。「しっかり者の母ゆえ、自分の葬儀代くらい用意していたかもしれないな」と雅之さんが通帳を開くと、驚愕の数字が目に飛び込んできました。

なんと、残高は5,000万円を超えていたのです。

「おい、ちょっとみんな、これ見てくれ……」

雅之さんは震える声で、弟たちに呼びかけます。

「えっ、ウソだろ」「こんなに貯めこんでいたなんて」「いや、母さんのことだから、これくらい貯まっていても不思議じゃない」

口々に言い合っていると、通帳の下に1通の封書を見つけました。早速中身を確認したところ、そこには母の丁寧な文字でこう書かれています。

「私になにかあったら、この番号に電話すること」

雅之さんが代表して恐る恐る電話をかけてみると、つながった先は弁護士事務所でした。そして事情を話すと、こう告げられました。

「近藤キヨエさんの遺言書をお預かりしています」

予想外の大金が遺されていた背景

キヨエさんがのこした遺言書のおかげで、相続は円満に行われました。

キヨエさんは「平等・公平な相続」のため、特定の誰かの世話になることなく、ひとりを貫いていたようでした。そのため、遺言書の内容は誰からも不平不満が出ない、見事な采配だったそうです。

キヨエさんの夫が亡くなった際、子どもたちが相続放棄したため、キヨエさんが遺産を全額相続しました。夫もキヨエさんと同じように質素な生活を好む人で、退職金や預金にほとんど手を付けることがなかったため、相当な額の資産が残されていたようです。

とはいえ、どんなに仲のよい家族でも、相続が絡むと争いが起きることは珍しくありません。

実際、令和5年度の司法統計によると、家庭裁判所に申し立てられた相続に関する争い件数は13,872件でした。これは家庭裁判所に調停や審判が申し立てられた件数であるため、裁判になっていないケースを含めると、さらに多くのトラブルが発生していると考えるのが自然でしょう。