義父からかかってきた一本の電話

53歳のナルミさん(仮名)が夫・リョウヘイさん(仮名・55歳)を突然亡くしたのは、冬の終わりのことでした。

なんとか四十九日が明けた翌日。ナルミさんのもとに、義父・タダオさん(仮名)から一本の電話が入りました。

自分を実の娘のようにかわいがってくれていた義父。ナルミさんが電話に出ると、葬儀対応などのねぎらいから始まり、日ごろのナルミさんに対する感謝や、リョウヘイさんの思い出話など、話が尽きません。

ナルミさんはそんな優しい義父のことを「本当の父のように慕っていた」といいます。しかし、次の一言で義父の「本当の目的」が明らかになりました。

「ところで、相続の話なんだがね……親の私たちにも権利があることはわかっているかな」

「えっ……? すみません、なんの話でしょうか」

「とぼけるな! 独り占めしようとしているのか!?」

突然の怒声に、戸惑いを隠せないナルミさん。努めて冷静に話を聞くと、タダオさんは息子の遺産をナルミさんが独占するのではないかと疑い、電話をかけてきたようです。

「実は、私たちには借金があってね……」

義父母は親族の事業の保証人となっており、年金暮らしのなかコツコツ返済を続けていたようです。

「電話ではまとまりませんから、直接お話ししましょう。遺産分割協議の際に詳しく伺います」

「そんなもんいらん! 一刻も早く相続分を振り込んでくれ」

「早く金をよこせ」という要求内容に、ナルミさんは絶句。そろそろ遺産分割協議を行わなくてはと思っていたものの、夫の死後の手続きに追われており、四十九日明けの翌日に突然金銭を迫られるとは思ってもみませんでした。

(夫の遺産とはいえ、夫婦でコツコツ積み上げてきたお金なのに。事情は理解したいけど、あんまりだわ……)

ナルミさん夫婦には子どもがいないため、タダオさんの主張は法律上間違っていません。頭ではわかっていても、割り切れない感情が胸の奥でくすぶります。

ナルミさんは結局、急かされるまま遺産を分けたあと、義父母と絶縁状態となってしまいました。