「まさか、あいつがこんなに差をつけているなんて…」。定年退職から10年、久しぶりに再会した同期との何気ない会話が、大森さんの心に深い衝撃を与えました。同じ会社で同じような退職金を受け取ったはずなのに、なぜこれほどまでに資産に差が生まれてしまったのか。その答えは、退職金の運用方法にありました。物価高が続く今、現金で眠らせているだけでは実質的に資産が目減りしていく現実を、多くのシニア世代が実感し始めています。退職金の運用はどうしたらよいのか、FPの青山創星氏と一緒に考えてみましょう
(※写真はイメージです/PIXTA)
俺は1億円持ってるから…72歳元会社員、酒の席で思わず絶叫。〈退職金3,000万円〉同期と条件は同じだったのに「とんでもない大差」がついたワケ【FPの助言】
投資の現実を知る―「運」と「リスク」の真実
木下さんの投資成功談を聞いて、大森さんは「自分もすぐに投資を始めよう」と考えました。しかし、木下さんが投資を始めたのは10年も前。今や大森さんは70代に突入しています。
そこで、大森さんもファイナンシャル・プランナーの永瀬財也さん(仮名)に相談することに。投資の過去の実績からリスクまで、詳しく説明を受けました。
「木下さんの成功は素晴らしいですが、これは結果論です。木下さんが投資を始めた2014年からの10年は、歴史的に見て非常に恵まれた時期でした。この期間には2018年末の2割下落や2020年のコロナショックによる3割急落もありましたが、全体としては順調に株価が上昇していきました。
しかし、かつて日本が経験した『失われた30年』のように、株価が長期間低迷することも十分に考えられます。実際、1990年から2020年まで30年間、日経平均株価は1989年の最高値を更新することができませんでした。
特に重要なのは、老後世代の置かれた状況です。シニアは現役時代と違い、今手元にあるお金と年金の収入しかありません。給与収入で投資の損失を補うことはできないのです。
長寿時代ですから、60代の方であっても、20~30年間は資産運用しながら取り崩していける期間があり、長期運用は可能です。しかし、その期間中に大きな下落に遭遇する可能性は十分にあります。大森さんは70代ですから、より慎重にならなければなりません」
そして、永瀬さんは「大切なのは、自分のリスク許容度をしっかり把握することです」と強調します。 この慎重なアプローチこそが、シニア世代の資産運用成功の鍵なのです。