投資の現実を知る―「運」と「リスク」の真実

木下さんの投資成功談を聞いて、大森さんは「自分もすぐに投資を始めよう」と考えました。しかし、木下さんが投資を始めたのは10年も前。今や大森さんは70代に突入しています。

そこで、大森さんもファイナンシャル・プランナーの永瀬財也さん(仮名)に相談することに。投資の過去の実績からリスクまで、詳しく説明を受けました。

「木下さんの成功は素晴らしいですが、これは結果論です。木下さんが投資を始めた2014年からの10年は、歴史的に見て非常に恵まれた時期でした。この期間には2018年末の2割下落や2020年のコロナショックによる3割急落もありましたが、全体としては順調に株価が上昇していきました。

しかし、かつて日本が経験した『失われた30年』のように、株価が長期間低迷することも十分に考えられます。実際、1990年から2020年まで30年間、日経平均株価は1989年の最高値を更新することができませんでした。

特に重要なのは、老後世代の置かれた状況です。シニアは現役時代と違い、今手元にあるお金と年金の収入しかありません。給与収入で投資の損失を補うことはできないのです。

長寿時代ですから、60代の方であっても、20~30年間は資産運用しながら取り崩していける期間があり、長期運用は可能です。しかし、その期間中に大きな下落に遭遇する可能性は十分にあります。大森さんは70代ですから、より慎重にならなければなりません」

そして、永瀬さんは「大切なのは、自分のリスク許容度をしっかり把握することです」と強調します。 この慎重なアプローチこそが、シニア世代の資産運用成功の鍵なのです。