銀行預金で眠り続けた3,000万円の現実

大森さんは退職金を受け取った時のことを鮮明に覚えています。

「大切な老後資金だから、絶対に減らすわけにはいかない」。そんな思いから、退職金の大部分を定期預金に預けました。当時の金利は0.03%。それでも元本保証という安心感には代えられませんでした。

しかし、最近まで住宅ローンの返済をしていたこともあり、夫婦の年金月24万円ほどではやりくりできずに貯蓄を切り崩す日々。さらに孫たちへの援助やリフォームでまとまった金額が必要になり、退職金(定期預金)の一部を解約して使うまでになっていました。

スーパーで買い物をするたびに「また値上がりしている」とため息をつく日々。 実際の数字を見ると、その現実は深刻です。2014年から2024年の10年間で、消費者物価指数は約11%上昇しました。つまり、10年前に100万円で買えたものが、今では111万円必要になったということです。

一方で、大森さんの定期預金は当初年0.03%、2017年以降は年0.01%程度の金利です。仮に3,000万円を満額ずっと預け続けていたとしても、10年間で約10万円程度しか増えず、資産価値は約320万円も目減りしている計算です。

「投資なんて博打みたいなもの」
「年寄りが手を出すものじゃない」

そう考えていた大森さんでしたが、木下さんの話を聞いて初めて気づいたのです。投資をしなかったことが、実は最大のリスクだったのかもしれないと。

でもまだ大森さんは、木下さんの言葉を信じることが出来ませんでした。2,000万円が10年間で9,000万円になるなんて。ちょっと大げさなことを言っているのか、何かヤバい投資でもしたのではないかと。

大森さんは帰宅後、インターネットでS&P500の過去の成績を調べてみました。2014年から2024年の10年間で、年平均14%を超えるリターン。さらに、S&P500インデックスファンド(iシェアーズ)でざっくり計算してみると、確かに2014年に2,000万円を投資していた場合、2024年には9,200万円を超えていました(1,700口・一括投資で試算。木下さんの実際の利益とは多少乖離あり)。

木下さんの言葉に嘘はありませんでした。

「あの時、少しでも勉強していれば……。もちろん投資以外にも違いはあるが、ここまで差がつくことはなかっただろう」

深い後悔の念が胸を締め付けました。