「まさか、あいつがこんなに差をつけているなんて…」。定年退職から10年、久しぶりに再会した同期との何気ない会話が、大森さんの心に深い衝撃を与えました。同じ会社で同じような退職金を受け取ったはずなのに、なぜこれほどまでに資産に差が生まれてしまったのか。その答えは、退職金の運用方法にありました。物価高が続く今、現金で眠らせているだけでは実質的に資産が目減りしていく現実を、多くのシニア世代が実感し始めています。退職金の運用はどうしたらよいのか、FPの青山創星氏と一緒に考えてみましょう
俺は1億円持ってるから…72歳元会社員、酒の席で思わず絶叫。〈退職金3,000万円〉同期と条件は同じだったのに「とんでもない大差」がついたワケ【FPの助言】
銀行預金で眠り続けた3,000万円の現実
大森さんは退職金を受け取った時のことを鮮明に覚えています。
「大切な老後資金だから、絶対に減らすわけにはいかない」。そんな思いから、退職金の大部分を定期預金に預けました。当時の金利は0.03%。それでも元本保証という安心感には代えられませんでした。
しかし、最近まで住宅ローンの返済をしていたこともあり、夫婦の年金月24万円ほどではやりくりできずに貯蓄を切り崩す日々。さらに孫たちへの援助やリフォームでまとまった金額が必要になり、退職金(定期預金)の一部を解約して使うまでになっていました。
スーパーで買い物をするたびに「また値上がりしている」とため息をつく日々。 実際の数字を見ると、その現実は深刻です。2014年から2024年の10年間で、消費者物価指数は約11%上昇しました。つまり、10年前に100万円で買えたものが、今では111万円必要になったということです。
一方で、大森さんの定期預金は当初年0.03%、2017年以降は年0.01%程度の金利です。仮に3,000万円を満額ずっと預け続けていたとしても、10年間で約10万円程度しか増えず、資産価値は約320万円も目減りしている計算です。
「投資なんて博打みたいなもの」
「年寄りが手を出すものじゃない」
そう考えていた大森さんでしたが、木下さんの話を聞いて初めて気づいたのです。投資をしなかったことが、実は最大のリスクだったのかもしれないと。
でもまだ大森さんは、木下さんの言葉を信じることが出来ませんでした。2,000万円が10年間で9,000万円になるなんて。ちょっと大げさなことを言っているのか、何かヤバい投資でもしたのではないかと。
大森さんは帰宅後、インターネットでS&P500の過去の成績を調べてみました。2014年から2024年の10年間で、年平均14%を超えるリターン。さらに、S&P500インデックスファンド(iシェアーズ)でざっくり計算してみると、確かに2014年に2,000万円を投資していた場合、2024年には9,200万円を超えていました(1,700口・一括投資で試算。木下さんの実際の利益とは多少乖離あり)。
木下さんの言葉に嘘はありませんでした。
「あの時、少しでも勉強していれば……。もちろん投資以外にも違いはあるが、ここまで差がつくことはなかっただろう」
深い後悔の念が胸を締め付けました。