「まさか、あいつがこんなに差をつけているなんて…」。定年退職から10年、久しぶりに再会した同期との何気ない会話が、大森さんの心に深い衝撃を与えました。同じ会社で同じような退職金を受け取ったはずなのに、なぜこれほどまでに資産に差が生まれてしまったのか。その答えは、退職金の運用方法にありました。物価高が続く今、現金で眠らせているだけでは実質的に資産が目減りしていく現実を、多くのシニア世代が実感し始めています。退職金の運用はどうしたらよいのか、FPの青山創星氏と一緒に考えてみましょう
俺は1億円持ってるから…72歳元会社員、酒の席で思わず絶叫。〈退職金3,000万円〉同期と条件は同じだったのに「とんでもない大差」がついたワケ【FPの助言】
日本人特有の「投資に対する不安」…二人の明暗を分けた「息子のひと言」
その後、大森さんは再度木下さんを誘い、話の続きをすることに。「自分も今からどうにかできないか」……そのヒントが欲しかったからです。
そもそも、なぜ大森さんは投資を避け続けたのでしょうか。その背景には、日本人特有の「投資に対する不安」がありました。金融庁の調査によると、「これまで金融商品を購入しなかった理由は何ですか」という質問に、60代以上の2割から4割の人が「損をすることに不安を感じる」「預金など元本保証がある方が安心」と回答しています。
実際に大森さんも退職金の受け取り後、銀行から営業電話を受けていました。しかし、「元本割れのリスクがあります」という説明を聞くたびに、「やっぱり怖い」と感じていたのです。
一方、木下さんも最初はまったく同じ考えでした。転機となったのは、息子からの「一度、専門家に相談してみたら?」という一言だったといいます。息子に勧められて訪れたファイナンシャル・プランナーの事務所で、木下さんの投資観は一変しました。
「まさに目から鱗だった。S&P500は利用可能なデータの約125年間で見ると、20年以上保有すれば一度もマイナスになったことがないというデータを見せてもらったんだ」
S&P500は、アメリカの代表的な500社の株価指数です。Apple、Microsoft、Amazon、Google、Teslaなど、世界を代表する企業に分散投資できるため、個別株よりもリスクが大幅に分散されます。手数料も低く、長期投資に適した商品です。
「もちろんプロのアドバイスは受けたけど、自分でもかなり勉強したよ。“投資は自己責任”だからね。もちろん妻にも相談した。それで、退職金を投資に回すことに決めたんだ」
そう語る木下さん。さらに、こう続けます。
「最初は100万円を入れて数ヵ月間様子見。大丈夫だなと思ったところで、何回かに分けて入金したんだ。2018年の年末に20%近く下がった時は本当に怖くて、売ろうかと思ったよ。でも、『長期投資では一時的な下落は必ず起こる。大切なのは続けること』と、ファイナンシャルプランナーも成功した投資家も口を揃えて言っていた。あの言葉がなければ、すぐに売ってしまい、今の自分はなかっただろうな」