日本人特有の「投資に対する不安」…二人の明暗を分けた「息子のひと言」

その後、大森さんは再度木下さんを誘い、話の続きをすることに。「自分も今からどうにかできないか」……そのヒントが欲しかったからです。

そもそも、なぜ大森さんは投資を避け続けたのでしょうか。その背景には、日本人特有の「投資に対する不安」がありました。金融庁の調査によると、「これまで金融商品を購入しなかった理由は何ですか」という質問に、60代以上の2割から4割の人が「損をすることに不安を感じる」「預金など元本保証がある方が安心」と回答しています。

実際に大森さんも退職金の受け取り後、銀行から営業電話を受けていました。しかし、「元本割れのリスクがあります」という説明を聞くたびに、「やっぱり怖い」と感じていたのです。

一方、木下さんも最初はまったく同じ考えでした。転機となったのは、息子からの「一度、専門家に相談してみたら?」という一言だったといいます。息子に勧められて訪れたファイナンシャル・プランナーの事務所で、木下さんの投資観は一変しました。

「まさに目から鱗だった。S&P500は利用可能なデータの約125年間で見ると、20年以上保有すれば一度もマイナスになったことがないというデータを見せてもらったんだ」

S&P500は、アメリカの代表的な500社の株価指数です。Apple、Microsoft、Amazon、Google、Teslaなど、世界を代表する企業に分散投資できるため、個別株よりもリスクが大幅に分散されます。手数料も低く、長期投資に適した商品です。

「もちろんプロのアドバイスは受けたけど、自分でもかなり勉強したよ。“投資は自己責任”だからね。もちろん妻にも相談した。それで、退職金を投資に回すことに決めたんだ」

そう語る木下さん。さらに、こう続けます。

「最初は100万円を入れて数ヵ月間様子見。大丈夫だなと思ったところで、何回かに分けて入金したんだ。2018年の年末に20%近く下がった時は本当に怖くて、売ろうかと思ったよ。でも、『長期投資では一時的な下落は必ず起こる。大切なのは続けること』と、ファイナンシャルプランナーも成功した投資家も口を揃えて言っていた。あの言葉がなければ、すぐに売ってしまい、今の自分はなかっただろうな」