(※写真はイメージです/PIXTA)

少子高齢化や核家族化により「お墓を継ぐ人がいない」という課題に直面する人が増えています。とはいえ、親の死後に行う「墓じまい」は、費用面でも精神面でも子世代に大きな負担がかかるのが現実――。そこでいま注目されているのが、親世代が元気なうちに行う「生前墓じまい」です。本稿では、株式会社WataSelica代表取締役・赤羽真聡氏が、自分の意思で供養の形を決め、家族への負担を軽減するための新しい終活として、「生前墓じまい」の重要性とメリットについて解説します。

2026/1/22(木)11:00~11:45開催

令和のお墓事情―「墓じまい」のリアル
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お墓を継ぐ人がいない時代の、「生前墓じまい」という選択

近年、「墓じまい」という言葉を耳にする機会が増えています 。少子高齢化や核家族化が進むなかで、「お墓を管理する人がいない」というケースが増えているためです 。しかし、遺された家族が実際にお墓を整理する段階になってはじめて、「なにから手をつけていいかわからない」「費用が想像以上にかかる」と戸惑う方も少なくありません。

 

そこで近年注目されているのが、“生前に墓じまいを進める”という選択です。お墓の管理や供養のかたちを自分の意思で整理しておくことは、遺された家族にとっても大きな安心につながります。

 

本稿では、「相続の生前対策」としてなぜ墓じまいが重要なのか、そしてどのような費用や準備が必要なのかを解説していきます。

 

改葬件数は10年で2倍…「墓じまい」をする人が増えている

お墓を維持するには、管理費や法要にかかる出費、遠方への交通費など、目に見えない負担が積み重なります。特に地方にお墓がある場合、「お墓に行くことが難しい」「(なかなかお墓参りに行けず)墓地が老朽化している」といった課題も深刻です。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

一方で、都市部に住む子世代・孫世代がお墓を守るために仕事や生活の拠点を変えることは現実的ではなく、「実家のお墓を継ぐ」ことが難しくなっています。こうした背景から、「自分の代でお墓を整理しておきたい」と考える方が年々増加しているのです。

 

実際、全国の改葬件数(お墓の移転・整理)は2014年の約8.4万件に対し、2024年時点では2倍の約16.7万件にまで増加しています。

 

[図表]墓じまい(改葬)件数の推移

 

墓じまいはもはや一部の人だけの問題ではなく、誰にでも関係する“終活の一環”となりつつあります。

 

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自分の意思が未来永劫残る…生前に「墓じまい」を行うメリット

1.自分の意思で供養の形を選べる

亡くなったあとに家族が判断するのではなく、自分の価値観や信仰に基づいて供養の形を決められるのが、生前墓じまいの大きな魅力です。「家族に負担をかけず、自分の考えでお墓を整理したい」とお考えの方は、元気なうちに墓じまいを検討しておくことをおすすめします。

 

また、生前墓じまいは、「万が一のとき、どのような供養を希望するか」を考えるいいきっかけになります。「自然に還りたい」「手元で供養してほしい」「永代供養に託したい」など、自分らしい供養の形をあらかじめ家族に伝えておくと安心です。

 

2.トラブルや迷いを未然に防げる

死後に墓じまいを進めようとすると、親族間で意見が割れたり、寺院とのやりとりに時間がかかったりすることも少なくありません。しかし、生前に自らが主体となって話を進めておけば、こうしたトラブルに家族が巻き込まれるリスクを大きく減らすことができます

 

特に寺院へのお布施などは、子世代では相場感がわからず戸惑うケースが多いです。ご自身が生前のうちに、直接寺院と希望を伝えながらしっかり話し合っておくことが、円満な解決のポイントです。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

3.経済的負担を軽減できる

墓じまいにかかる費用は、平均で30万〜200万円程度が相場です。しかし、生前に計画的に墓じまいを進めることで、総コストを抑える下記のような工夫を凝らすことができます。

 

・複数業者からの見積もり比較

・早期割引や分割払いの活用

・新しい供養先を同時に契約することにより、費用を最適化

 

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供養の仕方によって、墓じまいにかかる費用は大きく変わる

墓じまいには、主に以下のような費用が発生します。

 

・墓石の撤去、処分費:20万〜150万円

墓石の大きさや基礎工事の有無によって変動します。特に寒冷地では基礎が厚く、費用が高額になりがちです。

 

・墓地管理者への返還費用:0円〜数万円

永代使用権の返還に伴う手数料や、未払いの管理費の精算が必要になる場合があります。

 

・閉眼供養(僧侶へのお布施):3万〜10万円前後

墓じまいの際には、閉眼供養(魂抜き)の法要を行います。

 

・新しい納骨先への費用:5万〜50万円以上

永代供養墓、樹木葬、納骨堂など、選ぶ施設によって費用は大きく異なります。

 

たとえば、墓じまいと同時に永代供養を選ぶ場合、人数にもよりますが総額は30万〜80万円ほどが一般的です。一方で、海洋散骨なら10万円程度から、手元供養であれば5万円程度から始められるケースもあります。

 

供養の選択肢によって最終的な費用が大きく変わるため 、生前のうちに情報を集め、複数の選択肢を比較することで、「自分の希望」と「家族の負担軽減」を両立することができます。

 

生前墓じまいは、家族への“最大の思いやり”

人が亡くなると、のこされた家族は短期間のうちに、葬儀・火葬・納骨・各種手続きといった膨大な対応に追われます。なかでもお墓に関する判断は、感情面でも経済面でも非常に重い決断を迫られるのです。

 

「父がどんな供養を望んでいたのかわからない」

 

「お墓を守る費用をどこから出せばいいのだろう」

 

そうした迷いや不安が、家族の心に大きな負担となります。だからこそ、生前に墓じまいを進めておくことは、家族に迷惑をかけないための“最善の選択”といえます。

 

また、最近では「生前契約」を利用する方も増えています。あらかじめ業者や寺院と契約を結び、費用を前払いや分割払いで準備しておく仕組みです。これにより、物価上昇リスクを避けながら、遺族の経済的負担を確実に軽減することが可能になります。

 

事前に契約内容を明確にし、供養先を決めておけば、家族は安心して見送ることができるでしょう。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
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墓じまいの準備は「60代から」がベスト

墓じまいは「相続の一部」

「墓じまい」と「相続」は一見関係がなさそうに思われるかもしれませんが、実際には密接な関係があります。

 

お墓も“財産の一部”とみなされるため、相続の際に「誰が継ぐか」が問題になることがあるのです。また、実際には「墓地の名義変更」や「永代使用権の承継」など、煩雑な手続きが必要になるケースも少なくありません。

 

この点、生前のうちに墓じまいを済ませておけば、こうした法的な手続きをシンプルにし、相続トラブルの火種を事前に防ぐことができます。さらに、墓じまい後の供養を「永代供養」や「納骨堂」にまとめておけば、後継ぎ問題も自然に解消されます。

 

つまり墓じまいは、単なるお墓の整理ではなく、家族の将来設計と資産整理を兼ねた“終活の要”なのです。

 

では、いつから準備を始めればよいのでしょうか。一般的には、70歳前後から検討を始める方が多いといわれていますが、実際には下記のような条件に当てはまる「体力や判断力のあるうち」に進めるのが理想です。

 

・自分で見積もりや比較ができる

・家族と話し合う時間を取れる

・手続きに必要な書類を自分で揃えられる

 

こうした状況を考えると、60代から準備を始めるのがベストでしょう。特に地方に墓地がある方や、お寺との関係が長い方ほど、早めの行動がスムーズです。

 

永代供養、納骨堂、海洋散骨…多様化する「次の供養先」

墓じまいを検討すると同時に、「次の供養先」を考えることも大切です。近年は、従来のお墓に代わる選択肢が増えており、ライフスタイルや価値観に応じて、さまざまな供養の形を選べるようになっています。

 

永代供養墓:寺院や霊園が永続的に供養してくれる

納骨堂:アクセスのよい屋内型施設で人気

樹木葬:自然とともに眠る新しい形

海洋散骨・遺骨真珠:海へ還す自由な供養

手元供養:遺骨をアクセサリーやミニ骨壷として身近に置く

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
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これらの費用は5万円〜100万円以上と幅がありますが、選択肢が広がったことで、より自分らしい供養の形を選べるようになっています。次回以降では、それぞれの供養方法のメリット・デメリット・費用相場をくわしく紹介していきます。

 

まとめ…「後悔しない終活」をするために

墓じまいは、誰もがいつか直面するテーマです。しかし、そのタイミングを「死後」ではなく「生前」に変えるだけで、家族に与える影響は大きく変わります。

 

・自分の意思で供養の形を選べる

・費用を計画的に管理できる

・家族の負担を大幅に軽減できる

 

これらはすべて、生前に準備をしておくからこそ実現できることです。「墓じまい=お墓を閉じる行為」ではなく、“家族の未来を守る行為”として捉えることが、これからの終活には欠かせません。

 

次回は、実際に墓じまいを行う際に知っておきたい具体的な費用内訳と手続きの流れをくわしく解説します。

 

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