「良好な親子関係」がどのような状態を指すのか、それは家庭によって千差万別でしょう。ただし、親から子へ、はたまた子から親への「過度な期待」は、家族関係をこじらせる原因になることが多いようです。とある家族の例をもとに、熟年期の家族関係とお金のあり方についてみていきましょう。山﨑裕佳子CFPが解説します。※個人の特定を避けるため、登場人物等の情報は一部変更しています。
勝手にすれば?…定年直後の寡黙な夫と「熟年離婚」したい55歳専業主婦、愛するエリート息子に“はしごを外され”涙目【CFPが警鐘】
息子に離婚を相談→“まさかのひと言”に涙目
それ以来、美穂さんの頭のなかは「離婚」の2文字でいっぱいに。
しかし、いざ夫に「離婚」を切り出そうとしても、お金の不安がちらつき、すんでのところで思いとどまってしまいます。
「……そうだ、先に雄太に相談してからにしよう。いいアドバイスもらえるかも」
そう思い立った美穂さんは、早速雄太さんと外で会う約束を取り付けました。
美穂さんは開口一番、雄太さんにこう言いました。
「お父さんと離婚しようと思っているんだけど、どう思う?」
「はっ、なんで? ってか、離婚して母さん生活できるの?」
「まあ、貯金もあるし……お父さんの退職金を財産分与してもらえば、ある程度の資金は確保できると思うのよ」
「でも母さん、仕事もしてないし将来の年金も少ないでしょ」
「そうね~、それで……」
勇気を出して、美穂さんは言いました。
「それで、相談なんだけど。当面のあいだ、雄太のところで一緒に暮らせないかしら?」
その言葉を聞いた途端に、雄太さんは表情を曇らせました。しばしの沈黙のあと、意を決したように、雄太さんは言いました。
「……あのさ。この際だからはっきり言うけど、母さん、そろそろ子離れしてくれよ。離婚は勝手にすれば? だけど、俺は母さんと一緒に住むつもりはない。当然、援助する気もないよ」
自慢の息子からそんな厳しい言葉をもらうとは想像だにしていなかった美穂さんは、ハンマーで頭を殴られたような衝撃を受けます。涙目で「そう、わかったわ」と言うのが精一杯でした。
美穂さんの「その後」
いつまでも従順でやさしいままの息子だと思い込んでいた美穂さんに対し、雄太さんのほうは順調に親離れしていたようです。
浩二さんは後日、息子から事の顛末を聞かされ、美穂さんに聞きました。
「美穂、離婚したいのか? 正直な思いを聞かせてほしい」
一方の美穂さんは、あの衝撃以来「離婚」への意欲が失せてしまっていました。正直に夫にそれを伝えると、夫はこう言いました。
「そうか、よかった……。雄太はもう立派な大人なんだし、そろそろ手を離して、もう少し自分の時間を楽しんでもいいんじゃないか? そういえば昔、コーラスやってみたいって言ってたよな。この際だし、なにか新しいこと始めてみたらどうだ?」
その言葉を聞いた瞬間、美穂さんはハッとしたそうです。年月とともに家族のかたちは変わっていくのに、自分だけが、昔の時間軸のまま立ち止まっていたことに気づいたのです。
そうして、夫の懐の深さと息子のまっとうな助言により、離婚は撤回されることとなりました。
50代は人生の折り返し地点といわれます。残りの人生を自分らしく生きることが、家族円満の秘訣になることもあるようです。
山﨑 裕佳子
FP事務所MIRAI
代表