「良好な親子関係」がどのような状態を指すのか、それは家庭によって千差万別でしょう。ただし、親から子へ、はたまた子から親への「過度な期待」は、家族関係をこじらせる原因になることが多いようです。とある家族の例をもとに、熟年期の家族関係とお金のあり方についてみていきましょう。山﨑裕佳子CFPが解説します。※個人の特定を避けるため、登場人物等の情報は一部変更しています。
勝手にすれば?…定年直後の寡黙な夫と「熟年離婚」したい55歳専業主婦、愛するエリート息子に“はしごを外され”涙目【CFPが警鐘】
息子自慢の果てに思い至った“最高の未来”
美穂さんの夫・浩二さん(仮名・61歳)は決して高学歴ではなかったものの、いわゆる“たたき上げ”の仕事人。平社員から部長職まで上り詰め、退職前のピーク時年収は約1,100万円を誇ります。
学校の教育費から塾代、テニススクールの費用や道具類、遠征費にいたるまで、愛するひとり息子のためにお金を惜しみなく注ぎました。学校教育費以外の費用として大きかったのは塾代で、小学5年生から高校卒業までの8年間で総額500万円ほどはかかったと記憶しています。
美穂さんは専業主婦であったため、雄太さんの十分な教育環境は、経済的には浩二さんのおかげでした。
しかし、美穂さんは「いまの雄太があるのは私のおかげ」という思いが強く、浩二さんへのリスペクトはみられません。
寡黙な夫を毛嫌い…ママ友とのランチをきっかけに「離婚」を決意
家族の生活を守るため、懸命に働いてきた浩二さん。しかし、家庭内では美穂さんの逆鱗に触れぬよう、静かに過ごしていました。
一方、美穂さんは美穂さんで多忙な夫に対して「全然かまってくれない」と不満を募らせていたといいます。さらに、浩二さんが定年退職し家に居るようになると、今度は「寡黙すぎてつまらない」と、いっそうの嫌悪感を抱くようになりました。
そして、雄太さんからの嬉しい報告から数日後、美穂さんはママ友数人とランチに出かけました。雄太さんが幼いころからの、20年来の付き合いです。
他愛ない世間話を交わすうち、話題はいつしか子どもの近況報告へと移っていきます。
早速、息子の昇格を披露する美穂さんに、ママ友たちは一斉に感嘆の声を上げました。
「わぁ、凄いわね。昔からなんでもできる子だったけど、相変わらず優秀でうらやましいわぁ……。美穂さんの子育て、大正解だったってことね」
「これで、美穂さんの老後も安心じゃない? だって、いまの雄太くんがあるのは美穂さんのおかげなんだし、当然面倒見てくれるはずよね」
「そんなことないわよ~」と謙遜してみるものの、内心ニヤニヤが止まりません。
子どもの自慢がひととおり終わると、今度は夫の愚痴大会。ランチタイム終了までしゃべり尽くしたあと、ママ友との会話を反芻している帰り道、美穂さんはあることを思いつきました。
「息子がいれば、夫なんていらないかも……わたし、離婚してもやっていけるんじゃないかしら」