高額な治療費が必要ながん治療、公的制度は充実しているものの、それらは治療開始と同時に適用されるわけではありません。そこで、「治療」と「私生活」を両立するため、家計や働き方を見直すタイミングと、その際に見落としがちな「削ってはいけないお金」について、看護師FPの黒田ちはる氏の著書『【図解】医療費・仕事・公的支援の悩みが解決する がんとお金の話』(彩図社)からみていきましょう。
病気になったときの「治療費」の考え方…見落としがちな「削ってはいけないお金」とは【看護師FPが解説】
支払いから支給までのタイムラグ
「治療方針が決まった時」が、医療費や収入の変動を見据え、お金・制度・働き方について考える重要なタイミングです。
がん治療には高額な医療費がかかることが多く、公的制度を活用することで一定の負担軽減は可能ですが、実際には申請や審査に時間がかかることが多く、負担がすぐには軽減されないのが現状です。
例えば、高額療養費制度の「多数回該当」は、所得区分別に設定されている自己負担限度額が4回目以降にならないと医療費は軽減されません。つまり、治療が始まったばかりの段階では、最初の数ヵ月は高額な自己負担が続く可能性があります。
また、収入を補てんする傷病手当金も、会社を休み始めた直後には受け取れず、事後申請と審査が必要なため、支給までに一定の時間を要します。
このように、公的制度があるからといってすぐに経済的な不安が解消されるわけではなく、むしろ時間がかかることを理解したうえで計画的に対策を講じることが重要です。
しかし、治療が始まり、時間が経つにつれて貯蓄が減っていき、気づいた時には手元のお金がなくなっているというケースも少なくありません。
特に治療が始まると、体調の変化によって思うように仕事ができず収入が減る一方、医療費だけでなく、日常生活費、交通費、食費、場合によっては育児や教育、介護のための費用など、治療と並行して支出が増えていくこともあります。そのため、想定より早く貯蓄が底をつくケースも少なくありません。
だからこそ、「治療方針が決まった時点で、医療費や収入の変動を見据えて、お金・制度・働き方を同時に考える」ことが大切です。
例えば、医療費の支払い計画を立て、収入減少に対応できる制度の申請準備を進める、勤務先と相談しながら働き方の調整を考えるなど、早めに行動することで、経済的な不安を最小限に抑えることができます。
また、経済的な問題は、後になればなるほど選択肢が限られてしまいます。資産の取り崩しや借り入れが必要になってから動くのではなく、余裕があるうちに準備を始めることで、より柔軟な対応が可能になります。
がん治療においては、医療面での選択だけでなく経済的な視点も欠かせません。「お金」「制度」「働き方」を総合的に考え、治療方針が決まった時点で早めに準備を進めることで、長期的に安心して治療を続ける環境を整えられるのです。