がん罹患後の医療費負担や収入への影響は世代によって異なります。年金世代は年金という固定収入と貯蓄からやりくりすることになるでしょう。その一方で、就労世代は高額療養費の自己負担限度額が収入によって左右されるほか、通院・入院で収入そのものが減少する可能性もあります。そこで本記事では、看護師FPの黒田ちはる氏が、同氏の著書『【図解】医療費・仕事・公的支援の悩みが解決する がんとお金の話』(彩図社)より、がん治療において就労世代が抱える「課題」について解説します。
収入は減ったが医療費は減らない…高額療養費の「自己負担限度額」がすぐに下がらない理由【看護師FPが解説】
就労世代と年金世代で違う「がん治療のお金」
世代によって、がん罹患後の医療費負担や収入への影響は大きく異なります。治療にともなって収入が減ることが多い就労世代は特に要注意です。
高額療養費制度上の懸念
就労世代と年金世代では、がんになった後のお金の考え方がまったく違います。
年金世代の方の場合、例えば収入が公的年金のみで、高額療養費の区分が「一般」の場合、通院にかかる費用の上限額は1万8,000円/月、入院込みで5万7,600円/月です。
何より年金で固定収入が確保されているということの意味は大きく、年金の範囲内でのやりくりや定年までに蓄えた資産の切り崩し方という考えになります(それでも大変という意見もあるかと思いますが、年金制度自体の問題や定年までの蓄えに対する考え方にもよるため、ここでは触れません)。
一方で、65歳までの多くの方は働いて収入を得ており、高額療養費の自己負担限度額は収入に応じて変わるため、大きな個人差が出てきます。がんになり働くことが難しくなったとしても、高額療養費の区分はすぐには下がらないため、「収入は減ったけれどバリバリ働いていた時の基準で医療費がかかってしまう」ということが起きてしまうのです。
なぜ、高額療養費の自己負担額の区分はすぐに下がらないのでしょうか?
会社員の場合、高額療養費の区分は「標準報酬月額(ひょうじゅんほうしゅうげつがく)」によって決まります。4、5、6月の(通勤手当などを含む)収入によってその年の標準報酬月額が決まり、9月~翌年8月まで変更はありません。まれに契約内容が変更になり、標準報酬月額も変更になる場合もありますが、基本的には休職して収入が減ったとしても変更はありません。
4、5、6月に休職している場合はどうでしょうか。
月のうち、どのくらい働いているのかによって変わります。基本的には支払いの基礎となる、働いている日数が17日以上ある月で算定されます。しかし、3ヵ月とも休職していて給料がない場合、従前(休職前)の標準報酬月額で決定となります。
自営業(国民健康保険)の方の場合、高額療養費の自己負担限度額は前年の所得をもとに決められるため、減額対応を受けるのは難しいことが多いです。
しかし、自治体によっては特例措置や相談窓口が設けられていることもあるため、まずはお住まいの自治体の国民健康保険課に相談してみることをおすすめします。