高額な医療費の自己負担を軽減できる「高額医療費制度」について、実は、すべてのケースで適用されるわけではありません。それを知らずに高額な治療を受けた結果「こんなに医療費が高いのに、制度の恩恵を受けられないなんて……」と嘆く人も少なくないようです。そこで、看護師FP・黒田ちはる氏の著書『【図解】医療費・仕事・公的支援の悩みが解決する がんとお金の話』(彩図社)より、高額療養費制度が適用されないケースとその原因を紹介します。
医療費が高いのに、制度の恩恵を受けられないなんて…「高額療養費制度」の落とし穴【看護師FPが解説】
高額な医療費=高額療養費制度適用とは限らない
高額医療費制度の適用には、落とし穴とも言えるポイントもあります。注意しましょう。
高額療養費の自己負担限度額に達しないケース
■相談者の声
薬の説明の時に高額療養費にいかない可能性がわかっていたら、治療を始めなかったかもしれません
(40代女性、乳がん)
がん治療には高額な医療費がかかるため、多くの方が「これだけ高額なら、高額療養費制度の対象になるのは当然だ」と考えがちです。
しかし、実際には治療内容やスケジュール、収入状況によって自己負担額が高額療養費の基準に達せず、3割負担の医療費を支払い続けなければならないケースも少なくありません。
例えば、以下のようなケースでは、高額療養費の自己負担限度額に達しない場合があります。
1.治療スケジュールの影響
がん治療はスケジュールによって医療費の支払い額が大きく変わることがあります。例えば、3週間に1回の抗がん剤投与の治療スケジュールでは、このようなことがあります。
・ある月は2回治療を受けるため高額療養費の対象となる
・別の月では1回のみの治療となり、高額療養費まで達しない
多数回該当の適用には回数要件があるため、該当するまでに支払い負担が重く感じられることもあります。
さらに、同じ薬剤を使用していても、患者さんの体表面積によって必要な薬剤量が変わるため、同じ治療を受けていても個々の患者さんによって費用負担が異なるのです。
また、入院のタイミングに関しても、下の図のように、月をまたいで入院することになった場合、高額療養費が適用されなくなるケースがあります。
「月初に入院できれば高額療養費もひと月分で済むのに」という声も多く、入院を月初めに調整すれば高額療養費制度の恩恵を最大限に受けられると考える方もいます。
しかし、実際の病院運営では、ベッドの確保だけでなく医師や手術室のスケジュール調整が必要となるため、すべての患者さんの希望通りに調整するのは難しい現実があります。手術や入院が月初に集中すると、医療スタッフの負担が一気に増加し、病院の勤務シフトの調整が難しくなります。
病院では、患者さん一人ひとりの治療を安全に行うために、医師・看護師・薬剤師・リハビリスタッフなどが連携して治療にあたっています。
しかし、特定の時期に治療が集中すると、人員配置が間に合わず、医療の質にも影響を与える可能性があります。
また、がんの専門病院などでは入院を含めた治療待ちの日数が公開されているほど、治療スケジュールが厳密に管理されています。希望するタイミングで入院できるとは限らず、「月またぎを避けたい」という理由だけで調整しようとすると、治療の機会を逃してしまうリスクもあります。
このような背景もあるため、体を最優先に考えれば、適切なタイミングで治療を受けることがもっとも重要です。
がん患者さんの相談を専門的に受けている立場として、私はその医療費をどう捻出していくのかを一緒に考え、患者さんが不安なく治療を続けられるよう支援することを大切にしています。
