高額医療費適用の落とし穴…所得区分による影響

高額療養費の自己負担限度額に届かない高額な薬剤が増えてきています。これまで再発や転移がないと使用できなかった薬剤が、より早期の患者さんにも認可され、治療の選択肢が広がりました。

これは非常に喜ばしいことですが、一方で新たな課題も生じています。

特に収入によって設定される自己負担限度額が高い「区分ア」や「区分イ」に該当する方は、医療費が高額であっても高額療養費制度が利用できないということが実際に起きています。

出所:『【図解】医療費・仕事・公的支援の悩みが解決する がんとお金の話』(彩図社)より引用
[図表2]高額療養費制度が利用できない人の一例 出所:『【図解】医療費・仕事・公的支援の悩みが解決する がんとお金の話』(彩図社)より引用

例えば、3割負担で16万円の抗がん剤治療を受ける場合、「区分イ」に該当する方は、自己負担限度額が16万7,400円以上に達しなければしくみ上高額療養費制度の適用を受けることができません。

その結果、「こんなに医療費が高いのに、制度の恩恵を受けられないなんて……」という声が多く寄せられています。

さらに、当然ながら「多数回該当」の対象にもならないため、治療が長期化しても3割負担のまま支払いが続いてしまうという課題もあります。

「収入が高いから仕方がない」と思われがちですが、実際には、がん治療によってこれまでの働き方を維持することが難しくなる方も多く、「収入が減る中で高額な医療費を払い続けるのがつらい」という切実な声が多く聞かれます。

収入が高くなくても生じる負担

「収入が多いなら仕方がない」と思われがちですが、実際には収入が少ない、あるいは無収入であるにもかかわらず、自己負担額が高く設定されているケースも少なくありません。

例えば、専業主婦や扶養内のパート勤務の方からは、「自分の収入は少ないのに、夫(扶養者)の収入が高いために医療費の自己負担額が高くなる」という声が寄せられています。

高額療養費制度では、収入区分が本人の収入ではなく、扶養者の収入に基づいて決定されるしくみになっているため、たとえ本人の収入が少なくても負担が重くなることがあるのです。

出所:『【図解】医療費・仕事・公的支援の悩みが解決する がんとお金の話』(彩図社)より引用
[図表3]被扶養者の自己負担限度額が高額になるケース 出所:『【図解】医療費・仕事・公的支援の悩みが解決する がんとお金の話』(彩図社)より引用

こうした状況に対して、多くの患者さんから、やるせなさやもどかしさの声が寄せられています。

■相談者の声

指定難病や透析は国からの支援があるのに、なぜがんはこんなにも負担が大きいのか

(30代男性、肺がん)

治療にかかる経済的な負担の大きさを実感する中で、期待していた支援が受けられない現実に、困惑や諦めを感じる方も少なくありません。

しかし、現行の制度には適用の限界があるのも事実です。残念ながら特効薬はありませんが、治療開始の際にできるだけ早めに医療費の支払いについて対策を立てることが、今できる最善の方法です。

医療費の見通しを立てるとともに、活用できる公的制度の確認や無理のない働き方の検討、さらには医療費以外の支出についても早めに対策を講じることが重要です。

一人で悩まず、医療従事者や専門家と一緒に、できることから取り組んでいきましょう。

黒田 ちはる
看護師FP®