「月々の返済は今の家賃とほぼ同じ。むしろマイホームが手に入って得ですよ」——そんな営業トークに背中を押され、35歳で住宅ローンを組んだ佐藤さん(仮名・61歳)。あれから26年、役職定年で収入は激減、再雇用で働き続けているものの、ローン残高は1,200万円。「こんなはずじゃなかった」。同世代なら決して他人事ではない、住宅ローン破綻寸前の現実を、FPの三原由紀氏がお伝えします。
「家賃並みの支払いでマイホームが持てますよ」微笑む営業マンと契約して26年。61歳会社員、想定外の苦境に「もう限界…」【FPが解説】
「家賃9万円なら大丈夫」のはずが…26年後の現実は月15万円の重荷
「当時の家賃が9万2,000円。営業さんからは『ローン返済も月9万円程度なので、ほとんど変わりませんよ。ボーナス払いはありますが、昇進していけば問題ありません』と言われました」
そう振り返るのは、都内の中堅メーカーで長年勤務してきた佐藤和男さん(仮名・61歳)。1998年、35歳のときに埼玉県内の新築マンションを4,800万円の35年ローンで購入しました。妻の康子さん(仮名・58歳)もパートで働いており、「昇進すれば給料も上がる。余裕だろう」と判断したのです。
しかし現実は甘くありませんでした。
購入当初、月1万2,000円だった管理費・修繕積立金は、築20年を過ぎた頃から段階的に値上げが始まります。「設備の老朽化で修繕費が不足している」との理由で、今では月3万5,000円。さらに固定資産税が年12万円(月割りで1万円)、火災保険料、駐車場代も含めると、住居費は月15万円を超えています。
「営業さんが言った『家賃並み』というのは、毎月のローン返済額だけの話だったんですね。ボーナス払い15万円(年2回)もありましたが、『昇進すれば大丈夫』と軽く考えていました」
佐藤さんの長男が大学受験を迎えた頃、さらなる試練が待っていました。私立大学の授業料、さらに次男の高校受験も重なり、家計は火の車状態に。ボーナスから補填することは当たり前に……。
そして55歳——役職定年で月収は42万円から30万円へと12万円ダウン。妻のパート収入と合わせても、住居費だけで月収の半分近くが消えてしまいます。
「『定年まであと5年、退職金もあるしなんとかなる』と思っていたんですが、いざ蓋を開けてみると退職金は思ったほどではない。さらに60歳の雇用継続で給与は現役時代の半分程まで下がって...もう限界です」
現在のローン残高は約1,200万円。月々の返済額は変わらず9万円ですが、佐藤さんの手取り収入は18万円程度。妻のパート代10万円を合わせても28万円で、ボーナス払いを含めると住居費だけで月収の半分以上を占める状況です。