「月々の返済は今の家賃とほぼ同じ。むしろマイホームが手に入って得ですよ」——そんな営業トークに背中を押され、35歳で住宅ローンを組んだ佐藤さん(仮名・61歳)。あれから26年、役職定年で収入は激減、再雇用で働き続けているものの、ローン残高は1,200万円。「こんなはずじゃなかった」。同世代なら決して他人事ではない、住宅ローン破綻寸前の現実を、FPの三原由紀氏がお伝えします。
「家賃並みの支払いでマイホームが持てますよ」微笑む営業マンと契約して26年。61歳会社員、想定外の苦境に「もう限界…」【FPが解説】
「破綻」を避けるために今すぐできる3つの対策
佐藤さんのような状況に陥らないために、あるいは同様の状況から抜け出すために、今からでもできることがあります。
●対策1:定年時点の「真の住居費」をシミュレーションする
ローン返済額だけでなく、管理費・修繕積立金・固定資産税を含めた「真の住居費」を計算しましょう。さらに55歳以降の収入減少も加味して、返済額が定年後の手取り収入に対して無理のない水準(一般的に3割前後が目安とされます)に収まるかをチェックしてください。負担が大きい場合は、早急な対策が必要です。その一つは、可能な限り働き続けて収入を確保すること。雇用継続や再就職も、返済計画を支える有効な手段です。
●対策2:「部分的繰上返済」で着実に残高を減らす
退職金での一括返済にこだわらず、50代のうちから計画的に繰上返済を実行すれば、定年時の残高を圧縮できます。もちろん教育費や生活費で余裕が出にくい時期には難しいですが、少額でも取り組めば効果は期待できます。なお、固定で低金利なら投資で増やす選択肢もあり、借入条件に応じ柔軟に検討する姿勢も重要です。
●対策3:「住み替え」を前向きに検討する
「マイホームは一生もの」という固定観念を捨てることも重要です。佐藤さんのケースでは、現在のマンションは購入時より高い査定額が出ていますが、買い替え先の不動産価格も上昇しているため、慎重な検討が必要です。立地や築年数を見直し、身の丈に合った住まいへの住み替えも有力な選択肢となります。
「住み慣れた家を手放すのは寂しいですが、毎月15万円の重荷から解放される方が精神的に楽かもしれません」と佐藤さんも住み替えを真剣に検討し始めました。
「借りられる金額」と「返せる金額」は別物です。特にアラカン世代にとって住宅ローンは、老後生活の質を左右する重大な問題。「こんなはずじゃなかった」と後悔する前に、今こそ現実的な返済プランを見直す時期なのかもしれません。
三原 由紀
プレ定年専門FP®