高齢化が進む日本では、再雇用などで定年後も働く人が増えるなか、60~70代でも「まだまだ現役」というアクティブなシニアが増えています。ただ、いくら“人生100年時代”とはいえ、老いは必ずやってくるもの。いざ深刻化してからでは対応が難しく、周りに迷惑をかけることもあるため、さまざまなことに対して「元気なうちに」備えておくことが大切です。とある夫婦の事例をもとに、具体的な老後の備え方についてみていきましょう。辻本剛士CFPが解説します。
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日本のシニアの実情
高齢化が進む日本では、認知症と診断される人の数も増え続けています。令和4年度(2022年度)の調査推計によると、65歳以上の高齢者のうち、認知症とされる人の割合は約12%でした。
また、認知症の前段階と考えられている軽度認知障害(MCI)の人は約16%とされており、両者を合わせると高齢者のおよそ3人に1人が認知機能にかかわる症状を持つことになります。
認知症の初期症状である「物忘れ」は、単なる加齢による物忘れと異なり、忘れていること自体を思い出せなくなるのが特徴です。また、これまで温厚だった人が急に怒りっぽくなるなど、性格の変化がみられることもあります。
認知症は進行性の病気であるため、少しでも異変を感じた場合には早めに受診することが大切です。初期段階であれば家族の支えや環境調整によって生活を維持することも可能ですが、今後の進行を見据えて将来の暮らしや財産管理について家族としっかり話し合っておく必要があるでしょう。
特にお金に関しては、認知症が進むと「二重払い」や「詐欺被害」といったトラブルに巻き込まれるリスクが高まります。財産管理を信頼できる家族や専門家に任せる仕組みを整えておくことで、予期せぬ損失や家族間のトラブルを防ぎ、安心した生活を送ることにつながるのです。
家族のために、「終活」を決意した父
家族で話し合った結果、今後はお金の管理を妻の真理子さんが中心となって担い、涼子さんもサポートすることになりました。
そして和夫さん自身も「終活」を決心。夫婦で自治体の終活相談窓口を訪れ、今後の暮らしや財産について相談を始めました。
「まさか自分が認知症になるとは思ってもいなかった。受け入れるのは苦しいけれど、今は現実を受け止め、家族との時間を大切にし、迷惑をかけないように準備を進めていきたい」
そう語る和夫さんの表情には、以前のような強がりではなく、家族を思う静かな覚悟がにじんでいました。
辻本 剛士
神戸・辻本FP合同会社
代表/CFP
