友人に誘われて…軽い気持ちで参加した「終活セミナー」

大野忠男さん(仮名・69歳)は、妻の和代さん(仮名・66歳)と暮らしています。

現役時代は教師として厳しくも愛のある指導を行い、たくさんの生徒を社会に送り出してきた忠男さん。定年後は月23万円の年金と、退職金を合わせた5,000万円の貯蓄に支えられ、穏やかな日々を送っていました。

そんなある日のこと。夕食時、妻の和代さんは夫の忠男さんに、次のように話しました。

「習い事仲間のAちゃんからね、『終活セミナー』に誘われたのよ。無料で相談できるし、参加者にはお土産もあるんですって。行ってきていいかしら?」

「終活セミナー? いいじゃないか。行っておいでよ」

古希を目前に、「自分たちが亡くなったあと、子どもたちに迷惑をかけたくない」と、相続対策について話し合っていたこともあり、忠男さんは快く妻を送り出しました。

“お土産”につられて参加した和代さんでしたが、セミナーでは遺言書の書き方やエンディングノートの重要性など、終活の方法がわかりやすくまとめられており、目からウロコが落ちる思いでした。特に、「自分が元気なうちに準備しておくことが、家族への思いやりになる」という講師の言葉に、強く共感したといいます。

「ただいま! すごく勉強になったわ~!」

それからというもの、和代さんはセミナーの案内が届くたび、積極的に足を運ぶようになりました。

「ここなら安心して相談できる」

講師の説明はいつもわかりやすく丁寧でした。さらにセミナーに参加したことでで新しい仲間もできました。こうして、終活セミナーは和代さんにとって老後の暮らしを彩る新たなコミュニティの1つとなっていったのです。

忠男さんも、当初はそんな和代さんの様子をあたたかく見守っていましたが、数ヵ月経つと、妻の様子に違和感をおぼえるようになりました。