通帳は私が管理します…娘の「宣言」に父、激昂

次の日、リビングでくつろいでいる父に向かって、涼子さんは言いました。

「お父さん? ちょっと話があるんだけど、いい? あのね……お父さんはまだまだ元気だと思うけど、でもやっぱり年もとったし、いろいろと大変だと思うの。だからさ、お金の管理は私に任せてくれない? 私、銀行員だし、そういうの慣れてるから。だから、今日から通帳は私が管理しま……」

和夫さんの機嫌を損ねないよう言葉を選んだつもりでしたが、和夫さんは涼子さんが言い終わるのを待たず、顔を真っ赤にして言いました。

「どいつもこいつもなんなんだ! 俺を年寄り扱いするな!」

静まり返るリビング。しかし涼子さんは、怯むことなく“追撃”します。

「ねえお父さん、さっき『夕飯はまだか』って怒ってたけど、もう22時よ。夜の22時。夕飯は18時に食べたでしょう。お母さんも困ってるの。お願いだから、一度病院に行こう」

話によれば、真理子さんは1年ほど前から、父には物忘れの兆候があったといいます。時が経つごとにその違和感は大きくなり、認知症を疑わせる症状であることは否めません。

涙ながらに訴える妻と娘の姿を前に、和夫さんも衝撃を受けた様子。それ以上怒鳴ることはありませんでした。

病院で突きつけられた“現実”

翌日、山岸家は家族そろって病院を訪れました。昨夜娘と妻に説得され、しぶしぶ重い腰を上げた和夫さんですが、診察室へ向かう足取りもどこか重く、表情には苛立ちさえ浮かんでいます。

「俺に限って、そんなことあるはずがない。俺はボケてなんかない……」

しかし、医師のもとで詳しい検査を受けた結果、涼子さんと真理子さんの予想どおり、和夫さんは「初期の認知症」と診断されました。

現役時代はバリバリ仕事をこなし、完璧に家計を管理してきた自分がまさか認知症だなんて。医師の言葉に、しばらく呆然とする和夫さんでしたが、目の前に突きつけられた現実からは逃げられません。

妻に肩を抱かれながら、先の見えない不安にただ涙を流すしかありませんでした。