年金制度は複雑怪奇。すべてを完璧に把握している人はいないでしょう。とはいえ、年金の繰下げ受給・繰上げ受給についてはご存じの方も多いはず。たとえば受給開始時期を繰り下げると、1ヵ月繰り下げるごとに将来受け取れる年金額が0.7%増加します。ただし、場合によってはせっかく繰り下げたにもかかわらず「増えていない!」と絶望するケースも……。CFPの五十嵐義典氏が、60代のとある夫婦の事例をもとに、年金繰下げの注意点を解説します。
国から「働くな」と言われているみたいだ…年金繰下げ受給を検討する65歳夫婦、年金事務所で知った「まさかの事実」に絶望【CFPの助言】
年金増額幅「75%カット」に絶望
在職老齢年金制度の対象となる場合は、受給時期を繰り下げても、停止部分を除いた部分の老齢厚生年金に対してしか増額が適用されないことになります。
Aさんは70歳までの5年間、700万円程度の年収で厚生年金に加入する予定です。そのAさんの場合、51万円基準で試算すると、年金の受給開始時期を70歳まで繰り下げたとしても、老齢厚生年金のうち平均して約75%がカットされる計算となりました。つまり、残りの約25%分に対してしか繰下げ増額されないというわけです※。
※65歳前の記録で計算された額160万円について、25%×42%で10.5%の増額という計算。
そのため、老齢基礎年金は42%増えても、老齢厚生年金は65歳時点での額について10.5%の増額でしか試算されません。
具体的には、老齢基礎年金75万円に対して42%(31万5,000円)、老齢厚生年金160万円に対して10.5%(16万8,000円)の増額となりました。
Aさんは「頑張って働いて稼いでも損じゃないか? まるで国から『年寄りは働くな』と言われているみたいだ……」と納得のいかない様子です。
70歳までの5年間厚生年金に加入した分として、70歳の退職・繰下げ受給開始時に年間18万円増えることから、老齢厚生年金の繰下げ増額前の額の合計は先述の178万円となります(その18万円分については繰下げ増額の対象外)。
70歳から受給できる年金の総合計としては、75万円+31万5,000円+178万円+168,000円=301万3,000円でした。
繰下げ受給の注意点の確認を
今回紹介したAさんのように、「65歳以降も働くから」と繰り下げた場合、老齢厚生年金が思っていたより増えないことは少なくありません。増額率だけでなく、その具体的な仕組みを理解しておきましょう。
なお、2026(令和8)年4月より、在職老齢年金制度の基準額(51万円)が62万円に引き上げられる予定です。これにより、Aさんも含め、老齢厚生年金の繰下げ増額分が増えやすくなります。こうした制度の改正についても適宜確認しておきましょう。
五十嵐 義典
CFP
株式会社よこはまライフプランニング 代表取締役