Z世代に見られる極端な消費行動は、旧来のマーケティング手法では捉えきれない新しい価値観を映し出しています。彼らはなぜ、特定の分野に惜しみなくお金を使い、他の分野では徹底して切り詰めるのでしょうか。本稿では、牛窪恵氏の著書『Z世代の頭の中』(日本経済新聞出版)より、Z世代消費心理と行動原理について、詳しく解説します。
サウナに年間100万円、家には食器ゼロ…理解不能な「Z世代」の金銭感覚。一見“矛盾”した消費行動に隠された、彼らなりの“超合理的”な計算 (※写真はイメージです/PIXTA)

社会的に「イミ」がないものは購入しないのか

モノ消費、コト消費に次いで、18年ごろから言われるようになったのが「イミ消費」。リクルート「ホットペッパーグルメ外食総研」の竹田クニ氏が提唱したとされる概念で「商品やサービスの持つ社会的・文化的な価値を重視した消費行動」の意味です。最もイメージしやすいのは、環境配慮の「エコ、エシカル、SDGs」関連でしょう。

 

20年8月、コロナ禍でトヨタグループのクルマのサブスクサービス「KINTO(キント)」を取材した際、当時の担当者は「同年6月1日を境に、その前後(5月末までと6月1日以降)の比較で、若い世代(18〜29歳)の新規申込者数が約2倍にも増えた」と教えてくれました。その少し前の同年4月、私がインタビューしたZ世代は、「クルマを持っていれば、(接触を避けて)ばぁちゃんを病院に連れていけるのに」や「コロナや災害があっても、クルマがあれば困った人を助けに行ける」などの声を次々と発していたのです。

 

これもまた、貢献欲求に繋がる思考でしょう。Z世代の多くは、学生時代になんらかのボランティア教育を受けたり、社会貢献活動に参加したりした経験を有します。そんな彼らからすれば、レンタカーやカーシェアリングは、手軽で安く済む半面、必要なときに利用できるとは限らず、「誰かの役に立ちたい」という自身の貢献欲求を満たしにくい、とのジレンマがあるはずです。

 

コロナ禍でサブスクサービスの「キント」の若年申込者が増えたのも、「クルマが身近にあれば、いつでも利用できる」「誰かの役に立てるかもしれない」「だったらサブスクあたりから利用してもいいかな」といった「イミ」の心理が影響していた可能性もあるでしょう。

 

“イミ”だけでは動かないZ世代

ところが、です。そんな「意識高い系」のZ世代でも、必ずしもSDGsに配慮して消費するとは限りません。それどころか近年、むしろ逆行する行動も顕在化している。このことがまた、上の世代から「社会的に『イミ』ある消費をしたいと言う割には、結局は安くないと買わないよね」などと非難され、「若者=ケチ」だと思わせるのかもしれません。

 

たとえば24年、朝日新聞社が10〜60代に実施したSDGsに関する調査。この中で、SDGsの「認知度」は、10、20代の若い世代ほど高かったのですが、SDGsに沿った商品・サービスと「価格」については、「他に比べ、価格が(やや)高くても購入/利用したい」との20代の回答(23.5%)が、全体平均(24.4%)を下回り、逆に「価格が安ければ、購入/利用したい」との回答(38.4%)は、全体平均(32.5%)を約6%上回ったのです(「第10回SDGs認知度調査」)。

 

なぜ認知度の高さとは裏腹に、「イミより価格」を重視しやすいのでしょう。

 

一概には言えませんが、よく言われる「SDGs疲れ」のほか、今回のインタビューでは「本当にそれがSDGsに繋がるのか」との疑念や、「配慮したいがお金がない」「節約しないと」といった切実な懐具合も見てとれました。さらに、本来は環境や健康に負荷をかける「悪いモノ(コト)」だと分かっていながらも、Z世代はあえてそこに手を伸ばしてしまうことがあるようです。

 

 

牛窪 恵
世代・トレンド評論家