Z世代に見られる極端な消費行動は、旧来のマーケティング手法では捉えきれない新しい価値観を映し出しています。彼らはなぜ、特定の分野に惜しみなくお金を使い、他の分野では徹底して切り詰めるのでしょうか。本稿では、牛窪恵氏の著書『Z世代の頭の中』(日本経済新聞出版)より、Z世代消費心理と行動原理について、詳しく解説します。
サウナに年間100万円、家には食器ゼロ…理解不能な「Z世代」の金銭感覚。一見“矛盾”した消費行動に隠された、彼らなりの“超合理的”な計算 (※写真はイメージです/PIXTA)

サウナに年間100万円、でも家にはお皿もカップもない

料理に熱心な彼と対照的なのが、医薬品メーカーに勤めるソウタさん(27)。

 

「食べることに興味がないから、家には炊飯器や包丁はもちろん、お皿もカップもない」と言います。

 

趣味は「サ活」、すなわち頻繁に近所や全国のサウナを回り、心身を「ととのえる」こと。そのための旅行費用(年間60万円以上)のほか、個室のVIPルームが利用できる東京・六本木の高級サウナに毎月3万円以上、合わせて年間100万円以上使うそうです。

 

「サウナは、僕にとって唯一の『メンタル解放』空間。決して高いとは思いません」

 

その分、先の調理器具と同様、洋服や靴、カバンなどには見向きもせず、ほとんど消費しません。毎日3分の1の時間を消費する「睡眠」には興味があり、SNS上で話題の「コアラマットレス」(Koala Sleep Japan)には惹かれるものの、「1つ7万円以上って、結構な額ですよね」。1年前から買おうかどうしようかと迷っていますが、「もう少し下調べしたい、そうでないと後悔しそう」と、慎重な姿勢を崩しませんでした。

ベースは節約・倹約、興味ある分野には惜しみなくお金を使う「メリハリ消費」

推し活にハマるサラさん(※1)と、ゲームや美容、脱毛に消費(課金)するハルキさん、そしてサ活に大金を使うソウタさん。3人の共通点は「モノ」にほとんどお金を使わないこと。

 

※1 山梨県のIT企業に勤めるサラさん(24)は、韓国のボーイズグループ「RIIZE(ライズ)」推し。「私の脳内って、『エブリタイムライズ』なんで」。彼女はライズのCDやグッズ購入、韓国でのイベントやライブ参加のための往復交通費、宿泊費などに「1年間で70、80万円かそれ以上使ってるはず」とのこと。実は取材の2か月前まで、1年ほど交際した彼氏がいたそうです。でも当時から「週に1回会えれば十分」という程度で、優先順位は明らかに低かった。

『Z世代の頭の中』(日本経済新聞出版)128ページより抜粋

 

唯一、推し活にハマるサラさんは、ライズのグッズを買い集めていますが、その彼女も洋服などには興味がない。「もしや、ショウタロウと目が合うかも」と期待するライブ参加のときだけ、新品のワンピースを身にまとい、ヘアメイクもプロにお願いする(1回8000円程度)といいます。

 

また彼ら3人に共通する、もう一つの傾向は、ハマった分野には惜しみなく消費する半面、興味がない、あるいは「節約したい」や「慎重に考えたい」とする分野では、とことん切り詰めたり、消費を躊躇したりすること。

 

今回の定量調査(※2)でも、節約系の「クーポン・ポイント・家計簿(アプリ)」を普段から利用しているとのZ世代が42.2%にのぼり、そこに男女差はほとんど見られませんでした。

 

※2 インフィニティ&CCCマーケティング総合研究所によるZ世代約1600人調査

 

つまり、Z世代の多くで「節約・倹約」がベースにありながらも、興味ある分野には惜しみなくお金を使う「メリハリ消費」が、驚くほど顕著なのです。こうなると、どの分野に緩急をつけて消費するのかが百人百様で、マーケティングの現場でも、若者を「〇〇系」などと単純にカテゴライズ(クラスター分け)するのが難しくなっています。

 

では、そんな若者を捉えるうえで、私たちマーケッターが多くの企業にご提案する手法とは……? その一部を、最終章でご紹介しますので、ぜひそちらもご覧ください。