老齢年金は通常65歳から受給することができますが、この受給開始タイミングを“遅らせる”ことで年金を増額することができます。これが、「年金の繰下げ受給」制度です。65歳以降働く人が増えている今、「年金が増えるならぜひとも利用したい」と思っている人も多いでしょう。しかし、年金の繰下げ受給を利用しても年金が増えないケースがあると、株式会社よこはまライフプランニング代表取締役の五十嵐義典CFPはいいます。今回は、そんな年金の繰下げ受給制度の「落とし穴」についてみていきましょう。
まるで働き損…?66歳繰下げを検討中に発覚した『在職老齢年金』の落とし穴【FPが解説】 (※画像はイメージです/PIXTA)

65歳以降も高収入→恵まれているからこそ「老後資金」の備えを

 

ここまで見てきたように、65歳以降も収入が高い人は、「在職老齢年金制度」の影響で老齢厚生年金の繰下げ増額効果が思ったほど得られません。

 

厚生年金の加入は最大で70歳になるまで可能です。65歳以降も会社に勤めると、当然この5年間の厚生年金の保険料を掛け、掛けた分についての老齢厚生年金はあとで増えることになっています。

 

給与が高い人は在職中に高い保険料を負担するため、あとで増える額もその分多くなります。

 

しかし、繰下げ増額の対象となるのは先述のとおり、65歳以降の厚生年金加入期間で計算された額ではなく、65歳前の加入期間で計算された年金です。

 

現役時代から必死で稼いで高収入をキープしているにもかかわらず、自分よりも給与が低い人やすでに退職した人が繰下げ受給をした場合と比較して、年金の受給額が低くなる可能性があるのです。これは、「働き損」のようにも思えます。

 

したがって、65歳以降も働けて、かつ高収入がキープできる見込みのある人は、給与を退職したあとの老後資金として蓄えておくなど、いくつかの対策が必要になるでしょう。

 

65歳以降も働くとなると、アルバイトなどで給与も下がる人も多いなか、高い給与を引き続き受けられるということは、その分恵まれているといえます。

 

とはいえ、給与が受け取れているからといって支出を多くしてしまうと、退職したあとの年金生活が心許ないことになります。したがって、退職後の暮らしを見通して計画を立てる必要があるでしょう。

 

ただし、今回紹介した「在職老齢年金制度」については、基準額「50万円」の増額(62万円、71万円へ増額検討)もしくは廃止も議論されています。もし、廃止が実現すれば、65歳以降の収入が高くても増額効果が得られる可能性もあります。現時点では何も決まっていませんが、今後の法改正の動向にも注目しながら、65歳以降の就労と年金受給について考えていきたいものです。

 

※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。

 

 

五十嵐 義典

CFP

株式会社よこはまライフプランニング 代表取締役