老齢年金は通常65歳から受給することができますが、この受給開始タイミングを“遅らせる”ことで年金を増額することができます。これが、「年金の繰下げ受給」制度です。65歳以降働く人が増えている今、「年金が増えるならぜひとも利用したい」と思っている人も多いでしょう。しかし、年金の繰下げ受給を利用しても年金が増えないケースがあると、株式会社よこはまライフプランニング代表取締役の五十嵐義典CFPはいいます。今回は、そんな年金の繰下げ受給制度の「落とし穴」についてみていきましょう。
まるで働き損…?66歳繰下げを検討中に発覚した『在職老齢年金』の落とし穴【FPが解説】 (※画像はイメージです/PIXTA)

年金が増えると聞いて利用したのに…年金の「繰下げ受給」の“落とし穴”

 

通常65歳から受け取れる老齢年金ですが、この受給開始時期を遅らせることで年金を増額できるのが「年金の繰下げ受給制度」です。この制度については「ねんきん定期便」にも記載があるほか、65歳以降も働く人が増えていることなどを背景に浸透しつつあります。

 

ただし、この「繰下げ受給」制度にはいくつかの“落とし穴”もあるため、注意が必要です。

 

年金の「繰下げ受給」のしくみ

65歳になると、終身にわたって老齢基礎年金や老齢厚生年金を受給することができるようになります。受給額については、65歳到達日(年金の受給権の発生日)の前月までの年金加入記録により算出されます。

 

繰下げ受給を選択した場合、この金額が1ヵ月繰り下げるごとに0.7%増額されるしくみです。

 

繰下げは66歳0ヵ月から、最大75歳まで1ヵ月単位で繰下げが可能です。繰下げ受給開始が66歳0ヵ月であれば8.4%(0.7%×12ヵ月)、70歳0ヵ月であれば42%(0.7%×60ヵ月)、上限の75歳であれば84%(0.7%×120ヵ月)増額されます

※ ただし、加給年金、振替加算といった加算部分には増額なし。

 

受給開始が遅くなるものの、繰下げで増えた金額を生涯受給できることから、長生きした場合には65歳から年金を受け取るよりも受給累計額は多くなります。

 

また、老齢基礎年金と老齢厚生年金はそれぞれ別々に受給開始時期を選択できます。そのため、片方だけ繰り下げることも可能ですし、それぞれ異なる繰下げ時期から受給することもできます。

 

65歳以降も引き続き働いていて給与収入が見込める場合、65歳からすぐ年金を受け取る必要性があまり高くないため、「退職したあとでも、繰り下げて増額された年金を受け取ろう」と考えることも多いでしょう。

 

しかし、65歳以降の給与収入が「高給」の場合、せっかく繰り下げても老齢厚生年金の増額分が“抑制”されてしまい、思ったほどの効果が得られないという事態になりかねません。