長年勤め上げた末に迎える定年。ようやく肩の荷を下ろせるかと思いきや、家族から「まだ働ける」と期待をかけられる。そんな場面は、もはや特別なことではないのかもしれません。年金制度や雇用環境が大きく変化する現代、多くの人にとって引退後の人生設計は多様化しているようです。
まだ働けるでしょ?〈年金月20万円〉65歳元公務員、同居する娘婿の「思わぬひと言」に絶句 (※写真はイメージです/PIXTA)

長年の勤め先に別れを告げ、「穏やかな時間」を手に入れるはずが…

地方公務員として40年近く勤め上げた鈴木誠一さん(65歳・仮名)が、定年の60歳を迎えたのは5年前のことです。市役所の窓口業務から始まり、税務、都市計画と様々な部署を経験。地域住民のために尽くす日々に、大きなやりがいを感じていました。

 

「大きな問題もなく、無事に勤め上げられたことには満足しています。妻もずっと支えてくれましたし、これからは少しのんびりしたいと考えていました」

 

しかし、定年前に紹介された会社に、定年から5年経った今でも週3日で働いているという誠一さん。定年を機に仕事を辞めようとしていたのに、なぜ――その理由を聞きました。

 

その原因は一人娘の美咲さん(37歳・仮名)一家との同居。夫婦と、当時、6歳の男の子と5歳の女の子の4人家族、住んでいたマンションが手狭になってきたからとマイホームの購入を検討。その流れで、誠一さん宅を二世帯住宅にリフォームする計画が浮上したのです。

 

「いまの若い世代は大変ですよね、税金や社会保険料の負担が大きいうえ、教育費もバカにならない。二世帯住宅であれば、金銭的なサポートになると思いました」

 

リフォーム費用は退職金で賄う。その分、娘夫婦は助かるはずだ。安定した公務員とはいえ、仕事を辞めれば収入はいったんゼロになる。5年後に年金を受け取るようになったとしても、月20万円程度。正直、それでやりくりできるのか不安はある。しかし二世帯住宅とはいえ娘夫婦と同居していれば心強い――そんな打算があったことを、誠一さんは否定しません。娘夫婦との同居は、60歳で仕事を辞めることの不安を和らげるものではあったのです。

 

しかし、その考えが甘いものだったと実感するのは、二世帯住宅が完成し、同居がスタートしたあとのこと。リビングで娘婿である健太さん(40歳・仮名)と美咲さんの声が聞こえます。

 

「翔太の塾代も来年から上がるし、結衣もピアノを習いたいって言うし……」
「大丈夫だよ、お義父さん、まだ働けるでしょ。これからも何かと助けになるだろうから」

 

悪気のない、ごく自然な会話。娘夫婦はローン返済含む住居費がかかっていないにも関わらず、家計は楽ではなく、まだまだ誠一さんらに頼る気満々だったのです。思わず、言葉を失くす誠一さん。定年で仕事を辞めるという夢を諦めた瞬間でした。