一人暮らしの母親の暮らしぶりに、安心しきっていた息子

都内で働く会社員の金子浩司さん(仮名・57歳)は、結婚を機に都内にマンションを購入し、妻と息子と暮らしています。

地方出身の金子さんは、大学進学と同時に上京しました。一人っ子のため、実家には両親が二人で暮らしていましたが、2年前に父親が病気で他界。以来、83歳の母親は、慣れ親しんだ実家で一人暮らしを続けています。

母は几帳面な性格で、家はいつも整理整頓され、父親が亡くなったあとも料理をまめにこなす暮らしぶりです。近所付き合いも欠かさず、趣味の教室にも通うなど、活動的な毎日を送っているようです。

生活費の面でも、「年金が月15万円あるし、あとはお父さんが残してくれた貯金で十分暮らしていけるから」といわれており、金子さんの助けを必要とされることもありません。

「母は大丈夫、むしろ自分より元気なくらいだ」

金子さんは、そんな母を誇らしくさえ思っていました。仕事や家庭の忙しさもあり、金子さんが実家を訪れるのは年に1〜2回程度。時折かける電話口の母の声はいつも明るくはきはきとしており、「遠くに住んでいても、特に心配はいらない」と安心しきっていたのです。

1年ぶりの帰省、実家と母の姿に感じた「強い違和感」の正体

今年に入ってから仕事と家庭の都合が重なり、帰省のタイミングを逃していました。母に最後に会ったのは、昨年の夏。しばらく間が空いてしまったことを気にかけ、金子さんは久しぶりに一人で実家へ帰省しました。

玄関を開けた瞬間、違和感を覚えました。服や物が散乱し、古新聞や空き缶が放置された室内。リビングのテーブルには未開封の郵便物が山積みになり、冷蔵庫には賞味期限切れの食品が放置されたまま。これまでの几帳面な母の暮らしぶりからは考えられない事態です。

「母さん、どうしたの、これ……?」問いかけても、母は「ちょっと片付けが追いつかなくて」と力なく笑うばかり。

その母自身も、髪は乱れ、着ている服もよれています。身なりに無頓着になっている母の姿に、金子さんは驚きを隠せません。会話のなかでも同じ話を何度も繰り返し、日付や曜日の感覚も曖昧になっているようでした。

心配になった金子さんは、母を地元の病院へ連れて行きました。検査の結果、「軽度認知障害(MCI)」と診断。医師からは、「今後認知症へ進行する可能性が高いため、いまのうちに生活環境の改善と、将来に備えた財産管理の準備をしておくことが望ましいでしょう」と告げられました。