「今月も3万円足りない…」通帳を見つめる手が震える神宮寺夫妻。月15万円の年金で2人暮らしのアパート生活は、物価高騰の波に完全に飲み込まれていました。3年前まで「なんとかやっていける」と思っていた家計は、今や毎月貯金を切り崩さなければ生活できない状況に。お米を買うのも躊躇し、電気代を気にして真夏でもエアコンを我慢する日々。「昔と同じ感覚」では到底暮らしていけない現実に直面した老夫婦の切実な体験から、私たちが今すぐ考えなければならない老後の資産防衛策をFPの青山創星氏が探ります。
お米はもはや高級品です…〈年金月15万円〉〈貯金1,000万円〉家賃7万円のアパートで慎ましく60代年金夫婦。「今月も3万円足りない」みるみる減る貯金に忍び寄る「老後破産の影」【FPの助言】
「お米5キロが高級品に」物価高が直撃した年金夫婦の現実
アパートで暮らす神宮寺夫妻(夫68歳、妻64歳)の月曜日の朝は、いつも憂鬱から始まります。妻の恵子さんが手にするのは電卓とレシート、そして薄くなった家計簿。「また足りない……」小さなため息と共に漏れる言葉が、暗いリビングの雰囲気をさらに暗くします。
3年前、夫の英明さんが完全にリタイアした時、月15万円の年金でも「質素にすれば何とかなる」と考えていました。家賃7万円のアパート、光熱費1万5,000円、食費3万円。日用品や通信費、その他の費用をプラスしても、計算上はギリギリやっていけたはずでした。しかし現実は違いました。
「お米5キロが4,400円もするのよ。以前はその半分だったのに」。恵子さんの声には疲労が滲みます。食パン1斤が200円を超え、卵1パックが300円近く。日用品も洗剤やトイレットペーパーまで軒並み値上がりしています。
こうした物価高は、夫妻の暮らしを根底から変えてしまいました。
節約の限界―「電気代を気にして熱中症寸前」の危険な日常
恵子さんは、朝10時と夕方6時、自転車で近所のスーパーやドラッグストアを回るのが日課です。その日の数量限定の特売品は朝一番で手に入れます。夕方6時から7時にかけては、賞味期限の近い見切り品に黄色や赤色の30%割引、50%割引の値札が重ね貼りされるのを狙います。
以前は週に3回は魚や肉を買えていたのが、今では月に数回の特売日のみ。「豆腐と卵とモヤシが主役になっちゃった」と苦笑いする恵子さんですが、その表情には限界が見え隠れしています。
真夏になり室温が35度を超えても「電気代が怖い」とエアコンをつけるのを躊躇するという恵子さん。さらに、外出も激減しました。電車賃、バス代さえもったいなく感じる毎日。
「隣の県に住む孫の顔を見に行きたいけど、交通費を考えると……」。英明さんの言葉に、物価高が奪っているのは生活費だけでなく、人とのつながりや生きがいそのものだということが分かります。
神宮寺夫妻の節約努力は涙ぐましいものがあります。しかし、医療費や電化製品の故障による買い替え、アパートの更新料、冠婚葬祭などの支出もあり、夫の定年からわずか3年で貯金は1,300万円から1,000万円に減りました。
来年になれば、恵子さんも年金を受給できるようになります。しかし、その金額は月6万8,000円ほど。夫婦合わせて月22万円弱の年金は一般的に見ればそれほど少なくありませんが、減ってしまった貯金に、先々の病気や介護の可能性。突発的な支出があれば、資産は夫婦の寿命まで持たないかもしれない――。そんな不安に駆られています。
なぜ、ここまでの苦境に陥ったのでしょうか。