60歳定年の場合でも、公的年金の受給開始年齢である65歳までは就労によって生活したいと考える人は多いでしょう。しかし、ホワイトカラーの定年後の再就職事情は厳しく、希望の職に就けない人は少なくありません。今回は定年後の再就職がうまくいかない大手企業の元管理職の事例から、現実的なセカンドキャリアに向けてできることについて、CFPの松田聡子氏が解説します。
あなたの席はありません…年収1,000万円・61歳元大手企業の管理職、定年後の待遇に不満爆発→退職するも「再就職の採用ゼロ」の大誤算。へし折られたプライド・減り続ける貯金残高の「悲しい現実」【CFPの助言】
再雇用の条件に憤慨、退職を選択した61歳エリートサラリーマン
木暮忠広さん(仮名・61歳)は、大手機械メーカーで事業部長まで昇進したエリートサラリーマンでした。部下100名を束ねる立場で年収1,000万円を得ていた木暮さんですが、現在は無職。減り続ける預金通帳の残高を見るたびに、焦りが募るばかりです。
木暮さんの転落は60歳の定年を迎えたときから始まりました。会社は再雇用を勧めてきましたが、その条件は契約社員として年収400万円、しかも管理職ではなく一般スタッフという待遇でした。同じ部署で働き続けられるとのことですが、そのためにかつての部下の指示を受けて働かなくてはなりません。
「元部下の部下になるなんて屈辱的だ。今まで会社に貢献してきた俺をなんだと思っているんだ」と木暮さんは憤慨し、退職を選択しました。今までどおりの年収を得るのは難しくても、自分を正当に評価してくれる会社はあると思ったのです。
退職時には退職金2,000万円と貯金2,000万円の計4,000万円の蓄えがありました。子どもたちはすでに独立し、専業主婦の妻と二人暮らしの木暮さんは、「仕事はすぐに見つかるだろうし、失業給付もあるから、蓄えをそれほど減らすこともないさ」と楽観視していました。しかし、現実は甘くなかったのです。
再就職はいばらの道…貯金を切り崩す不安な日々へ転落
就職活動を始めた木暮さんは、自分にふさわしいと考える管理職ポストを探し続けましたが、思うような求人はありません。特にデジタル化が進む現在、ITスキルに乏しい木暮さんを歓迎する企業は皆無でした。
「俺は大企業での事業部長の経験がある。それなりの待遇で迎えられるはずだ」というプライドが邪魔をして、条件を下げることもできません。
退職後1年間の就職活動では失業給付の受給期間中も含めて就職先は見つからず、生活費として月25万円を取り崩す日々が続いています。住宅ローンは完済済みですが、固定資産税や生命保険料、交際費などで支出は思った以上に減りません。
「このペースでは65歳までに貯金が半分近くになってしまう。いったいどうすればいいのか」と木暮さんは途方に暮れています。